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中国
【エネルギー全般・政治経済】

【論説】メコン河危機をめぐる中国と東南アジアの矛盾 (10/04/12)
2010/4/13
中国【エネルギー全般・政治経済】

 曹海麗「中国、メコン河危機をめぐって交渉開始」《新世紀》

 もし大型旱魃がなければ、中国とメコン河下流5ヶ国との累積した矛盾も激しく爆発することはなかっただろう。

 今回の大型旱魃では中国西南地区の雲南、貴州、広西が大きな損害を被っただけでなく、メコン河沿岸の6,500万人の人々も苦しみを味わっている。中国政府は、今回の未曾有の旱魃は気候変動によるものとしているが、メコン河流域の多くの住民は、中国がメコン河上流に当る瀾滄江(ランツァン江)に水力発電所を建設したために旱魃が激化したと見ている。

 中国が上流に大型ダムを建設したことが下流の水流に直接の影響をもたらしたのだろうか。この点につき、中国外交部の宋濤副部長は、4月上旬にタイのホアヒンで開かれた第1回メコン河委員会サミットにおいて、こうした見方を「科学的な根拠がなく、事実に合致しない」と批判し、「メコン河の水位の低下は中国の水力発電開発とは関係がない」と表明した。

 中国政府のこのような主張は想定内のことである。議論の当否はひとまず置くとして、問題は、メコン河下流の民衆がなぜ中国の大型ダムを歓迎しないのかということである。

 大型ダムをめぐる争論と矛盾は、中国が1992年、瀾滄江に最初の大型ダムである漫湾ダムを建設して以来止んだことがない。その後、いくつかの大型ダムが建設されるとともに、争論はますます激烈なものになっている。2008年にメコン河流域数カ国が歴史的な洪水に見舞われた時も、中国の大型ダムは非難の的になった。

 中国と東南アジア諸国の国際関係を研究している中国人学者によると、技術的視点を除き、ダム建設が下流に一定の影響を及ぼすことについては、社会心理面から理解することが必要である。まず、これら流域国が直面するのは政治大国であり、この大国はちょうど彼等の上流を抑えている格好になる。メコン河流域の季節は2種類しかない、雨季と乾季である。彼等は神霊と自然に対して宿命的な畏怖を抱いている。また、そこでは少なからぬ民衆がNGOの影響下にあり、中国に対する対立と不信の情緒が根を下ろして、極めて強い被害者心理を有している。

 このような矛盾が激化した挙句、政治上の紛糾になったため、中国は宋濤外交副部長を長とする代表団を第1回メコン河サミットに派遣するとともに、関係国との協力を強化することに同意した。また、下流の諸国に雲南省の景洪及び曼安の乾季水文資料を提供した。

 メコン河委員会は1995年に発足し、加盟国はタイ、ベトナム、ラオス、カンボジアの4ヵ国である。中国と軍事政権下にあるミャンマーは、度々招請されているが、未だ加盟はしていない。今回、メコン河委員会は大型旱魃を機にサミットを開催することになり、中国に対してデータをもっと提供するよう求めることになった。

 中国は瀾滄江に8基の大型ダムを建設する計画であり、すでに3基が完成している。その他に小湾水力発電所が来年竣工する。下流の諸国は中国に対して小湾水力発電所の水文資料を提供するよう特に求めている。なぜなら、このダムの貯水状況が下流の水流に及ぼす影響は、他のダムに比べて大きいからである。

 この数年、国際河川をめぐる中国と関係国との衝突が目立っている。2005年の松花江汚染事件は大きな教訓を残した。ダム建設問題をめぐって、中国は東南アジアと南アジアからの圧力に直面している。特にタイとインドはNGOの活動が盛んな国である。

 中国はすでに変化している、数年前、中国がメコン河諸国に提供した大型ダムの雨季水文資料は限られたものでしかなかったが、昨年、国家発展改革委員会が北京でメコン河流域について会議を開催した時には、国外のNGOに対して傍聴と抗議を許可した。

 しかし、国際河川問題をめぐっては、中国の危機管理は緒に就いたばかりであり、多くの作業は未だ実施に移されていない。中国の学者が指摘するように、現時点で中国政府の行動は基本的に相手国政府に対するレベルに限られており、メコン河流域で生活する民衆に実地調査を行い、彼等が「苦しんでいるのか、それとも利益を得ているのか」を理解するには到っていない。一方、日本は村落に到るまで調査研究を進めており、考え方の違いは際立っている。件の中国人学者は、今回、旱魃により矛盾が大爆発したことで中国政府が次々と譲歩を迫られることになれば、それも良いことでないとは限らないと見ている。

 国際河川問題の処理が当を得なければ、極めて大きな弊害を残すことになる。米国太平洋研究所の水資源のアナリストであるPeter Gleick氏は、そのブログにおいて、水資源争奪の暴力の歴史が最も長いのは中東であるが、目下最も懸念すべきはアジアであるとし、「アジアでは、汚染、人口の急増、大規模な移民、水使用の低効率、有力な機構の欠如や比するもののない複雑な政治関係によって、不穏な情勢がもたらされている」と指摘する。

 中国は、複数の国際河川の源流として、生態の持続可能な発展を保持する責任と義務を有している。そのことは究極的に数千万人の生存と子孫の存続に及ぶのである。

 (財新網 4月12日)

 注:この記事は中国の代表的または個別的な見解を示したものであり、エイジアム研究所の見解を示すものではありません。