中国海関総署の統計によると、今年7月、ロシアから中国への原油輸出量は前年同期のほぼ半分に激減した。ロシア石油会社Rosneftによると、同社がESPO(東シベリア−太平洋)パイプラインにより輸送した原油総量は前年同期並みとのこと。つまり、同原油パイプラインによって輸送された原油の相当部分が中国以外の市場に輸出されたことになる。 中国はエネルギー供給の多元化を推進して一国への過度の依存を減らそうとしている。ロシアは中国にとって原油供給の多元化を進める重点対象の一つである。こうした背景の下で、ロシアが中国への原油輸出を激減させた原因はどこにあるのか、それは今後も続くのか、中国のエネルギーセキュリティにいかほどの影響を及ぼすのか、注目に値する。 業界筋の見方によると、ロシアの対中原油輸出削減措置は、ロシアが中国に圧力を加える一種の手段である。 無形の圧力 中投顧問のエネルギー産業研究員である宋智晨氏は、ロシアが7月に対中原油輸出を半減させたのは、Rosneft並びにパイプライン輸送会社Transneftと中国石油天然ガス(CNPC)のパイプライン原油輸送費をめぐる紛糾が原因であると指摘する。ロシア側は、中国への原油輸出を減らすことによって、中国側に対しロシアの主張するパイプラインタリフを支払うよう迫っているのである。 ロシア側は一貫して中国がロシア国内で発生する費用も含めて原油輸送の全行程の費用を負担すべきとしてきた。つまり、中国が負担すべき輸送費は極東のコズミノ港まで計算したトン当たり1,815ルーブルということである。しかも、ESPOパイプラインを経由する石油は、距離の長短に関わらず同一のタリフを支払わなければならないとしている。中国石油大学国際石油政治研究センターのパン教授は、「中露原油パイプラインのタリフは比較的高価だ。そのため、中露原油パイプラインタリフをめぐる交渉は大幅に難航している。特に9月以降、ロシア連邦物価局が石油タリフを引き上げ、1km・100トンの輸送費は、以前の5ドルから10ドル以上に上がった」と言う。その後、中露双方は度々交渉を進め、中国は最終的に未払い金を支払う意向を表明した。TransneftとRosneftが明らかにしたところでは、中国はTransneftに7,800万ドル、Rosneftに1.17億ドルを支払って、未払い金のほとんどを清算した。9月15日、CNPCとTransneftの交渉は失敗に終わり、8月までに0.4億ドルのタリフについて決着する必要がある。ロシア側の間違ったタリフ問題が協議によって解決されるのは10月中旬のプーチン首相の訪中まで待たねばなるまい。 CNPCの未払い問題はすでに収まったものの、このことが中露両国の石油貿易にマイナスの影響を及ぼしたことは間違いない。この件に関して、ロシアは中国側からの100億ドルの融資の早期償還と中国への原油供給停止にも言及した。中国社会科学院ロシア東欧中央アジア研究所の李福川研究員の見方によると、ロシアは「供給削減」という方法を用いて中国の「未払い」に対応しているが、これは明らかに契約の趣旨に違反している。 ロシアは対中原油供給を減らしていることで、原油タリフ問題だけでなく、中露天然ガス価格交渉にも無形の圧力を及ぼしている。宋智晨氏は、「中露天然ガス交渉が最も重要な時期に差し掛かっている時に、ロシアが中国への原油供給量を減らすことは、これをもって天然ガス交渉のカードにしようとしていることは明らか。天然ガス交渉への無形の圧力になっている」と言う。 中露原油交渉は価格問題で長年難航していたが、中露天然ガス交渉のボトルネックも同様に価格問題である。パン教授は、「国際原油価格の高止まりが続く中、エネルギー輸出国としてロシアは天然ガス価格と石油価格を連動させたいところだ。行き詰まっている中露天然ガス価格交渉に直面し、ロシアは痺れを切らし、対中原油輸出量を減らすことで天然ガス価格交渉に影響を及ぼし、中国に圧力をかけようとしている」と述べた。 客観原因 ロシアの今回の措置は目に見えない多重の効果を上げた。業界関係者の見方によると、ロシアの挙動は、10月のプーチン首相訪中時に中国とロシアが天然ガス価格で合意文書に調印するという計画も失敗に終わることを予感させる。しかし、東方石油ガスネットのアナリストである呂穎氏は異なる見方をしている。「昨年中国がロシアから輸入した原油量と対比してみると、2010年の8月と9月のロシアから中国への原油供給も相対的に減少していた。毎年第3四半期は原油需要のオフシーズンだ。国際原油価格が高止まりする中で、ロシアが供給を減らすのは一種のビジネス戦略だ。中露天然ガス価格交渉への影響は軽微だ」。 東方石油ガスネットの統計によると、中国の月間原油輸入量は2,000万トン前後であるが、ロシアから輸入する原油の変動幅は比較的大きい。但し、昨年及び今年のロシアからの輸入原油は中国の総輸入量の6.46%で、平均値には余り大きな変化はない。「したがって、ロシアが7月に中国への原油輸出量を減らしたことは短期的なビジネス行為に過ぎず、通常の変動の範囲内にあり、余り大きな影響は及ぼさない。このような措置が長続きするのかどうか、どれくらい続けられるのかについては、今後数ヵ月、ロシアが供給減少を持続するかどうかを見守る必要がある。しかし、当面の国際エネルギー情勢から見て、ロシアの供給削減は短期的なものだろう」と、呂穎氏は説明した。 一方、国務院発展研究センター欧亜研究所の孫永祥研究院の観察によると、ロシアの全体的な経済状況が次第に好転し、国内の原油と石油製品需要が増えているため、自国の製油所に必要な石油も増えている。今年第2四半期にロシアの製油所が要する石油の量が大幅に上昇し、国内石油製品価格の上昇幅も小さからぬものになった。特に重油小売価格は13.3%、ガソリン価格は16.3%上昇した。Rosneftにとっては、輸出するより自国の市場に販売する方が利益を上げられる。今年第2四半期、ロシアの大手石油会社はいずれも輸出量を減らしたとのことである。上半期のロシアの石油総輸出量は3.7%減少して、1.188億トンになった。国際原油価格の高止まりが続き、経済情勢の好転によって国内の石油需要が次第に増える中、短期的に石油輸出を減らして国内需要を賄うことは理の当然である。 波乱含みの中でも前進 中露両国のエネルギー協力は幾多の波乱を経てきたが、全体的に見ると、前進することは必然である。 宋智晨氏の見方によると、原油パイプライン問題と天然ガス交渉の要因により、短期的にはロシアは対中原油輸出を減らすことで中国に圧力をかける可能性はある。しかし、長期的に見た場合、ロシアが持続的に対中原油輸出を減らす可能性は大きくない。現在欧州経済の回復が遅れ、二番底の懸念もある。原油消費の伸びは相対的に鈍く、ロシアのエネルギー企業は新興市場の開拓を迫られている。中国は世界最大の発展途上国であり、エネルギー消費は大きい。エネルギー市場の需要は旺盛であり、ロシアのエネルギー企業にとって主要な目標市場になっている。 ロシアの専門家もまた、対中石油供給の安定はRosneft、CNPCいずれにとっても重要であると見ている。双方ともに、事を荒立ててロシアが中国への原油供給を中断する状況を生じさせることはない。 呂穎氏は、「中国は買い手市場として、資金によって資源と交換する。国際原油供給が決して不足していない状況の下で、主導権を持つのは買い手市場だ。中国の原油総輸入量の中でロシアからの輸入原油の占める比率は依然小さい。ロシアの対中原油輸出減少が中国に及ぼす影響は決して大きいものではない。一方、ロシアにとって中国市場の意義はそれとは異なる。とはいえ、中国はエネルギー輸入を多元化する基本戦略を放棄できない。中露はいずれも小さな矛盾があるからといって相手側を放棄することは出来ないのだ」と述べた。 中国社会科学院ロシア東欧中央アジア研究所の李福川研究員もまた、中露双方の契約執行主体には「未払い」や「供給削減」等の問題を解決して今回の一件が経済外交事件に発展することを避ける能力があることに自信を示し、10月のプーチン首相の訪中時に天然ガス協議が成り、最終的にウィン・ウィンの実現が期待できるとした。 (中国石油石化 10月9日)
中国海関総署の統計によると、今年7月、ロシアから中国への原油輸出量は前年同期のほぼ半分に激減した。ロシア石油会社Rosneftによると、同社がESPO(東シベリア−太平洋)パイプラインにより輸送した原油総量は前年同期並みとのこと。つまり、同原油パイプラインによって輸送された原油の相当部分が中国以外の市場に輸出されたことになる。
中国はエネルギー供給の多元化を推進して一国への過度の依存を減らそうとしている。ロシアは中国にとって原油供給の多元化を進める重点対象の一つである。こうした背景の下で、ロシアが中国への原油輸出を激減させた原因はどこにあるのか、それは今後も続くのか、中国のエネルギーセキュリティにいかほどの影響を及ぼすのか、注目に値する。
業界筋の見方によると、ロシアの対中原油輸出削減措置は、ロシアが中国に圧力を加える一種の手段である。
無形の圧力
中投顧問のエネルギー産業研究員である宋智晨氏は、ロシアが7月に対中原油輸出を半減させたのは、Rosneft並びにパイプライン輸送会社Transneftと中国石油天然ガス(CNPC)のパイプライン原油輸送費をめぐる紛糾が原因であると指摘する。ロシア側は、中国への原油輸出を減らすことによって、中国側に対しロシアの主張するパイプラインタリフを支払うよう迫っているのである。
ロシア側は一貫して中国がロシア国内で発生する費用も含めて原油輸送の全行程の費用を負担すべきとしてきた。つまり、中国が負担すべき輸送費は極東のコズミノ港まで計算したトン当たり1,815ルーブルということである。しかも、ESPOパイプラインを経由する石油は、距離の長短に関わらず同一のタリフを支払わなければならないとしている。中国石油大学国際石油政治研究センターのパン教授は、「中露原油パイプラインのタリフは比較的高価だ。そのため、中露原油パイプラインタリフをめぐる交渉は大幅に難航している。特に9月以降、ロシア連邦物価局が石油タリフを引き上げ、1km・100トンの輸送費は、以前の5ドルから10ドル以上に上がった」と言う。その後、中露双方は度々交渉を進め、中国は最終的に未払い金を支払う意向を表明した。TransneftとRosneftが明らかにしたところでは、中国はTransneftに7,800万ドル、Rosneftに1.17億ドルを支払って、未払い金のほとんどを清算した。9月15日、CNPCとTransneftの交渉は失敗に終わり、8月までに0.4億ドルのタリフについて決着する必要がある。ロシア側の間違ったタリフ問題が協議によって解決されるのは10月中旬のプーチン首相の訪中まで待たねばなるまい。
CNPCの未払い問題はすでに収まったものの、このことが中露両国の石油貿易にマイナスの影響を及ぼしたことは間違いない。この件に関して、ロシアは中国側からの100億ドルの融資の早期償還と中国への原油供給停止にも言及した。中国社会科学院ロシア東欧中央アジア研究所の李福川研究員の見方によると、ロシアは「供給削減」という方法を用いて中国の「未払い」に対応しているが、これは明らかに契約の趣旨に違反している。
ロシアは対中原油供給を減らしていることで、原油タリフ問題だけでなく、中露天然ガス価格交渉にも無形の圧力を及ぼしている。宋智晨氏は、「中露天然ガス交渉が最も重要な時期に差し掛かっている時に、ロシアが中国への原油供給量を減らすことは、これをもって天然ガス交渉のカードにしようとしていることは明らか。天然ガス交渉への無形の圧力になっている」と言う。
中露原油交渉は価格問題で長年難航していたが、中露天然ガス交渉のボトルネックも同様に価格問題である。パン教授は、「国際原油価格の高止まりが続く中、エネルギー輸出国としてロシアは天然ガス価格と石油価格を連動させたいところだ。行き詰まっている中露天然ガス価格交渉に直面し、ロシアは痺れを切らし、対中原油輸出量を減らすことで天然ガス価格交渉に影響を及ぼし、中国に圧力をかけようとしている」と述べた。
客観原因
ロシアの今回の措置は目に見えない多重の効果を上げた。業界関係者の見方によると、ロシアの挙動は、10月のプーチン首相訪中時に中国とロシアが天然ガス価格で合意文書に調印するという計画も失敗に終わることを予感させる。しかし、東方石油ガスネットのアナリストである呂穎氏は異なる見方をしている。「昨年中国がロシアから輸入した原油量と対比してみると、2010年の8月と9月のロシアから中国への原油供給も相対的に減少していた。毎年第3四半期は原油需要のオフシーズンだ。国際原油価格が高止まりする中で、ロシアが供給を減らすのは一種のビジネス戦略だ。中露天然ガス価格交渉への影響は軽微だ」。
東方石油ガスネットの統計によると、中国の月間原油輸入量は2,000万トン前後であるが、ロシアから輸入する原油の変動幅は比較的大きい。但し、昨年及び今年のロシアからの輸入原油は中国の総輸入量の6.46%で、平均値には余り大きな変化はない。「したがって、ロシアが7月に中国への原油輸出量を減らしたことは短期的なビジネス行為に過ぎず、通常の変動の範囲内にあり、余り大きな影響は及ぼさない。このような措置が長続きするのかどうか、どれくらい続けられるのかについては、今後数ヵ月、ロシアが供給減少を持続するかどうかを見守る必要がある。しかし、当面の国際エネルギー情勢から見て、ロシアの供給削減は短期的なものだろう」と、呂穎氏は説明した。
一方、国務院発展研究センター欧亜研究所の孫永祥研究院の観察によると、ロシアの全体的な経済状況が次第に好転し、国内の原油と石油製品需要が増えているため、自国の製油所に必要な石油も増えている。今年第2四半期にロシアの製油所が要する石油の量が大幅に上昇し、国内石油製品価格の上昇幅も小さからぬものになった。特に重油小売価格は13.3%、ガソリン価格は16.3%上昇した。Rosneftにとっては、輸出するより自国の市場に販売する方が利益を上げられる。今年第2四半期、ロシアの大手石油会社はいずれも輸出量を減らしたとのことである。上半期のロシアの石油総輸出量は3.7%減少して、1.188億トンになった。国際原油価格の高止まりが続き、経済情勢の好転によって国内の石油需要が次第に増える中、短期的に石油輸出を減らして国内需要を賄うことは理の当然である。
波乱含みの中でも前進
中露両国のエネルギー協力は幾多の波乱を経てきたが、全体的に見ると、前進することは必然である。
宋智晨氏の見方によると、原油パイプライン問題と天然ガス交渉の要因により、短期的にはロシアは対中原油輸出を減らすことで中国に圧力をかける可能性はある。しかし、長期的に見た場合、ロシアが持続的に対中原油輸出を減らす可能性は大きくない。現在欧州経済の回復が遅れ、二番底の懸念もある。原油消費の伸びは相対的に鈍く、ロシアのエネルギー企業は新興市場の開拓を迫られている。中国は世界最大の発展途上国であり、エネルギー消費は大きい。エネルギー市場の需要は旺盛であり、ロシアのエネルギー企業にとって主要な目標市場になっている。
ロシアの専門家もまた、対中石油供給の安定はRosneft、CNPCいずれにとっても重要であると見ている。双方ともに、事を荒立ててロシアが中国への原油供給を中断する状況を生じさせることはない。
呂穎氏は、「中国は買い手市場として、資金によって資源と交換する。国際原油供給が決して不足していない状況の下で、主導権を持つのは買い手市場だ。中国の原油総輸入量の中でロシアからの輸入原油の占める比率は依然小さい。ロシアの対中原油輸出減少が中国に及ぼす影響は決して大きいものではない。一方、ロシアにとって中国市場の意義はそれとは異なる。とはいえ、中国はエネルギー輸入を多元化する基本戦略を放棄できない。中露はいずれも小さな矛盾があるからといって相手側を放棄することは出来ないのだ」と述べた。
中国社会科学院ロシア東欧中央アジア研究所の李福川研究員もまた、中露双方の契約執行主体には「未払い」や「供給削減」等の問題を解決して今回の一件が経済外交事件に発展することを避ける能力があることに自信を示し、10月のプーチン首相の訪中時に天然ガス協議が成り、最終的にウィン・ウィンの実現が期待できるとした。
(中国石油石化 10月9日)