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中国
【原子力】

【論説】中国は原子力発電の大躍進を停止せよ (12/03/08)
2012/3/8
中国【原子力】

 中国は原子力発電の大躍進を停止せよ (12/03/08)
 
 中国科学院理論物理研究所研究員・中国科学院院士 何祚●(「廃」の「発」を「休」に)
 
 中国は原子力発電発展の大躍進を即時停止しなければならない。なぜなら、中国の原子力発電計画には原子力の安全問題についていかなる評価も具体的な分析もなされていないからである。中国工程院がまとめた《中国エネルギー中長期発展戦略研究・原子力の巻》には、チェルノブイリ事故という単語さえ見当たらない。

 中国は原子力安全基準を見直し、中国の国情と必要性に適した原子力安全基準を新たに制定しなければならない。「原子力の安全」という言葉には2つの意味が含まれている。英語のSafetyとNational Securityには厳格な区別がある。私の浅い理解では、Safetyには天災しか含まれないが、National Securityには人災も含まれる。我々は原子力の安全を追求する上で、Safetyだけでなく、National Securityにまで高めなければならない。しかし、中国の場合、原子力発電所の安全のみに限られる。実際、原子力発電をめぐっては、原料の採掘、製造、発電、処理、移転、貯蔵のあらゆる活動に多くの安全問題が存在している。Securityという単語にはもっと多くの意味が含まれる。敵の航空機からの襲撃に対してどのように防御するのかという問題や、テロリストの破壊、核物質の密輸、核技術の無統制の移転などに対する防衛も含まれる。その他にも国の安全保障や国際社会共同の安全保障といった重要な問題も含まれる。

 さらに、中国には未だ広く注目されていない問題もある。すなわち原子力発電所のコストと収益である。中国の設計する原子力発電所の安全基準は極めて低い。しかも、耐震基準設計は往々にして公開されない。その理由は、国家発展改革委員会が原子力発電所の発電コストについて石油発電のコストの20%を超えてはならないとしているからである。コストが高すぎると発展改革委員会は支持しない。私の知るところでは、当初の設計基準は概ね震度6.5クラスであったが、新たに設計されたいわゆる「第三世代」AP1000型原子力発電所でも震度7クラスに過ぎない。そのため、中国の運転中及び建設中の原子力発電所は震度9クラスの地震に耐えられないだけでなく、唐山地震や四川大地震にも耐えられない。

 核資源、核燃料サイクル、原子力発電所、事後処理、核変換並びに核廃棄物処理から発電コストに到るまで、一連の産業チェーンにどれほどのカネがかかるのも余りはっきりしていないが、参考になる数字なら挙げることが出来る。「フランス人は200億ユーロもの天文学的なカネを支出したが、これは年間処理能力800トンの施設に過ぎない」ここから推計すると、出力100万kWの原子力発電所で耐用年数60年とすると、分離後の処理施設の建設費は6億ユーロである。問題はこの処理施設が対応するのは超強度の放射性物質の襲撃であるということ。制御コンポーネントやセンサーはどれくらいの連続運転が可能かは未知数である。しかも作業員が近づいて損壊したデバイスを解体交換することは出来ない。

 これには処理施設の建設に要する土地、土建、賃金、環境保護、付加価値税等の費用は算入していない。回収できるのはわずか12キロのプルトニウムと1,425トンのウランだけである。天然ウランの国際価格は1ポンド当たり約50ドルであるが、「核不拡散」があるため、プルトニウムは1グラム5,500ドルに引き上げられる。簡単な試算でも、発生する生産高は約2億ドルで、これは導入した「事後処理」施設等のすべて支出の中で極く一部分でしかない。

 さらに重要なことは、ウラン燃料棒の燃焼後に放射性が極めて強い核廃棄物が残ることである。どのように処理、変換、貯蔵すれば数十万年にも上る貯蔵期間を保証し、ヒトの住環境に深刻な破壊をもたらさないようにすることができるかが問題であり、それもコストに算入しなければならない。中国も含めどの国もこの問題を妥当に解決するこが出来ないままである。この重要な問題が真の意味でスケジュールに上った場合、原子力のコストは大幅に増加する。中国の原子力発電所の高速発展にはもう一つの致命的な問題もある。中国は天然ウラン資源の深刻な不足、とりわけ可採埋蔵量の深刻な不足にも直面することになる。もし2050年に原子力発電を4億kW以上にするという既定目標を達成しようとすれば、中国は少なくとも400万トンもの天然ウランの可採埋蔵量の不足に直面する。国際機関の既存資料をもとに統計すると、世界の天然ウラン可採埋蔵量は550万トン、予想埋蔵量と推定埋蔵量を加えても約1,600万トンである。2007年に天然ウラン資源世界一のオーストラリアが半世紀の努力を経てようやく発見できた可採埋蔵量は124.3万トンであった。中国は今後30〜50年間、探査の大幅な強化によって200万トンの天然ウラン資源可採埋蔵量を発見することに期待を寄せているが、これは想像さえもできない。したがって、中国は原子力発電開発の「シーリング」を設定しなければならないと断固として呼びかけるのである。

 (中国新聞週刊網 3月8日)