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中国のPV企業にEUが反ダンピング調査立件 米国を基準に高税率の課税も (12/09/07)
2012/9/13
中国【新エネルギー】

 世界最大の太陽光発電市場が中国企業に対する「敷居」を引き上げ

 欧州委員会は9月6日、正式立件公告を発表し、中国のPV電池に反ダンピング調査を起こすことにした。200億ドルに上る案件であり、中国と欧州間では過去最大の貿易紛争になり、また、世界で最も金額の大きい貿易紛争になる。

 2011年の中国PV電池の欧州向け輸出額は204億ドルで、同時期において同製品の輸出総額の73%を占めた。つまり、EUが中国のPV製品に高額の反ダンピング税を課税すれば、中国のPV産業はこの上ない災厄に見舞われ、競争上の優位はなくなり、約30万人の雇用に衝撃がもたらされる。

 中国商務部の沈丹陽報道官はこの件について談話を発表し、中国側は交渉を通してPV製品をめぐる貿易摩擦を解消するよう再三にわたって呼びかけたが、欧州委員会は依然反ダンピング調査に熱意を有していると述べ、中国側はこの点について大きな遺憾を表明するとした。

 中国機電製品輸出入商会も声明を発し、今回の反ダンピング調査に強く反対するとしてEUの保護貿易主義行為に不満を表明し、今後起こりうる悪影響を注意深く見守ると述べた。

 注目すべきは、EUが中国の市場経済地位を認めていないため、今回の調査では米国を第三者の代替国として、中国のPV製品にダンピングが存在するかどうかを思量した点である。アナリストによると、米国のPV産業はコストが余りにも高く、米国を基準にすれば、中国企業は今後必然的に高額の反ダンピング税を課されることになる。

 欧州委員会は反ダンピング立件調査申請の45日間の期限が満了になる最後の日に立件の決定を下した。これより先、8月末にドイツのメルケル首相は中国訪問中に中国側に対して重要な政治意義を有する表明を行っていた。メルケル首相は、調査ではなく対話を通して紛争を解決することに希望を表明した。しかし、EUの貿易担当官僚は、EUの法律規定を厳守することが必要であり、貿易訴訟が一定基準に適合していれば、調査を展開すると表明した。

 EUの規定によると、欧州委員会は立件後60日から9ヵ月以内に基本裁決を下すことになる。一方、中国のPV電池企業は37日以内にEUの調査アンケートに対して回答し、PV電池の欧州向け輸出量、収入、販売額等の情報を提出しなければならない。

 欧州委員会は、ダンピングの証拠が決定的になれば、貿易保護条項に則って中国製品に対し9ヵ月間の臨時反ダンピング税課税措置を採る公算であると表明した。

 調査は産業チェーンの全てが対象

 今回の反ダンピング立件調査は、ドイツのPV企業大手Solar World AGが中心になり、イタリアやスペインの同業者とともに7月末に提出した申請に応じたものである。

 Solar World AGが中国企業に「手をつける」のは今回の訴訟提起が初めてではない。同社は早くも2011年末に別のPVメーカー6社とともに、米国において中国企業のダンピングを告発した。米国商務省は今年5月に裁決を下し、中国から輸入するソーラー製品に約31〜250%の懲罰的関税を課することにした。

 しかし、米国の中国PV製品に対する「反ダンピング・反補助金」が電池のプロセスのみを対象にしたのとは異なり、EUの今回の反ダンピング調査には中国のシリコンチップ、電池、結晶シリコンモジュールも含まれる。そのため、中国のPV企業にとっては米国の場合と比べて、懲罰的関税を回避することがはるかに難しくなる。

 欧州と米国のPV市場にはその「キャパシティ」に極めて大きな差がある。欧州は世界最大のPV製品応用市場であり、中国のPV製品の主要輸出エリアでもある。一方、世界のPV設置容量の中で米国が占めているのは約10%に過ぎない。

 Maxim GroupのアナリストAaron Chew氏によると、中国のPV産業にとっては、台風の襲撃に遭ったばかりのところへ突然竜巻に巻き込まれたようなものであり、極めてまずい状況にある。

 中国のPV企業の圧迫感は倍増

 阿特斯陽光電力科技有限公司市場部の沈揚子氏は東方早報紙記者の取材を受けた際に、同社の法律チームが相応の応訴資料を準備していると述べた。

 英利緑色能源控股有限公司の首席法律顧問である陳卓也氏も、最悪の状況にも対処するため、英利がすでに関連文書と分析データの準備に着手していることを明らかにした。英利は一方では欧州委員会のアンケートに回答しつつ、もう一方では遊説を展開して欧州委員会との密接な連携を維持している。

 シリコンチップ生産能力で世界上位5位に入る中国PV企業のマーケット部門の責任者は東方早報紙記者に対して、中国のPV製品に対する「反ダンピング・反補助金調査」が電池に限定されていたのに対し、今回のEUの措置は産業チェーンのほぼ全体を対象にしていると述べた。電池を対象にするものである限り、企業はこの工程を海外OEM方式によって回避することもできるが、「今や海外に工場を建設することが必要になったようだ」。

 英利もまた、東南アジアや欧州に工場を設けてリスクを移転するよう計画していると表明した。

 しかし、沈揚子氏は、「貿易障壁を回避するために海外に工場を建設するという手段を採れば、今度は現地の高い人件費等の要因により、製品コストの上昇を招くことになる」と考えている。

 さらに、沈揚子氏は、今や企業だけが行動を起こすのではなく、政府が前面に出ることも求められていると指摘する。

 「PV企業は政府が交渉方式によって当面の紛争を解決するよう希望している。我々は政府と協同して交渉を進め、関連するチャンネルを通して、貿易戦争の局面を生じさせないよう呼びかける」。沈揚子氏が明らかにしたところでは、機電商会はすでに中国企業に代わって欧州議会で遊説を行っており、書簡を出して問題の深刻さを説明した。

 欧州委員会は米中の同種製品の比較を開始

 今回の案件の原告であるSolar World社は訴訟を提起した際に、中国のPV企業が不法な補助金を受けダンピングを行っていると述べ、中国のPV製品の低い価格によって欧州の製品の市場価格がカットされているとの見方を示し、「ブリュッセル(EU本部)が対抗措置を取らなければ、EUの全PVメーカーは直ちに倒産を宣告するだろう」とした。

 欧州委員会は昨日、中国から輸入するPV電池がEU市場の価格及び地場製品の市場シェアにマイナスの影響を及ぼしていることは欧州企業の提出した基本的な証拠から明らかであり、そのため委員会は中国のPV電池メーカーを対象に調査を展開すると宣言した。

 欧州委員会によると、中国が欧州に輸出したPV電池の価格及びコストについてはすでに比較を行っており、それらの差額と米国から輸入した同種製品の比較対照を行っている。欧州委員会は、このような方法によって試算したところ、中国製品のダンピングの幅は極めて大きいとしている。

 中国のPV製品販売価格の下落については、中国機電製品輸出入商会が公開声明を発して、中国のPV製品価格が近年下落したのは原材料の国際相場の大幅な下落が主な原因であるとし、中国の競争上の優位は技術の進歩と集約化生産によって生産効率を高めコストを引き下げたことに由来し、決してダンピングや補助金によるものではないと指摘した。

 今年に入ってから、シリコン材料のスポット価格は下落傾向が続いており、年初の1キロ当たり30ドルから今では18ドルに下がり、下落幅は40%に上っている。シリコン材料のコストはPVモジュールコストの25%以上を占めているため、PVモジュールの材料コストが大幅に下がった次第である。
 
 中国再生可能エネルギー学会太陽光発電委員会副主任兼事務局長の呉達成氏は東方早報紙記者のインタビューに対し、ダンピングかどうかは主にコストと販売価格の関係を見ることになるが、実際、中国のPV企業の製造コストは長年の努力によってすでに大幅に下がっており、いかなる国を基準に試算したとしても、比較しようがないのは理の当然であると述べた。

 「PV製品のコスト低下は、廉価の系統連系や電力コストの引き下げにポジティブな作用を果たしている。しかし、保護貿易の視点からすると、第三者の生産コストを用いて中国の製造業を考量し、参照対象国のその種の計画を選択することは、中国企業にとって不公平だ」と、呉達成氏は言う。

 沈丹陽報道官は昨日、「国際金融危機以降、世界経済の回復は鈍い。各国のPV産業には企業の経営難や破産、倒産等の現象も出ている。中国とても例外ではない。中国と欧州のPV産業は一種の相互依存、互恵協力関係にあり、中国のPV製品を制限することは、中国と欧州双方の産業利益を損なうことになる」と述べた。

 ある業界関係者によると、EUの正式立件は中国のPVに最も直接的な打撃を与え、もっと多くの企業が倒れることになる。特に中小企業は絶望的である。

 新華社は昨日、深セン中電投資株式有限公司太陽光発電業務部の梁俊民副部長の分析を引用して、次のように指摘した。中小メーカーの主要市場は欧州であり、EUが門戸を閉ざすと、一部企業は資金チェーンの供給が途切れることになる。新興国市場の購買力も十分でなく、中国国内の各種補助金措置も中小企業までカバーしきれない。そのため、30%前後か場合によってはそれ以上のPV企業が倒産するだろう。

 中国と参照できる基準は台湾

 アナリストによると、中国がWTOに加盟した際、欧米は中国の市場経済地位を決して認めず、そのため欧米諸国は「反ダンピング・反補助金」において一般に生産コストが中国より高い第三代替国を選ぶ。中国のPVに対する「反ダンピング・反補助金」において米国が選択したのはタイである。そして、今回EUが選択したのは米国である。

 タイのPV産業は規模が相当小さく、そのため生産コストは高いままである。タイを基準にすると、最終的に中国のPVは31%以上の「反ダンピング・反補助金」税率を背負わされる。

 「米国を基準国にすることにも全く道理がない。米国のコストは中国と全く比較にならない。米国が工場を1軒建てるコストは中国の2、3倍になる。労働者の賃金も我々の2、3倍だ」。民生証券電気設備・新エネルギー産業アナリストの王海生氏は東方早報紙記者に対してこう述べた。中国と米国のPV製品コストの差は、主として総合コストが一様でないことにある。

 「一つは建設費だ。初期投資が異なる。工場の解体でも差が大きい。もう一つは産業チェーンの総合能力だ。中国の総合能力は米国に比べても強い。つまり、中核設備のコストやシリコン材料のコストは米国とそれほど変わらないが、中国は製造のあらゆるプロセスにおいてコストが米国よりもはるかに安い」と、王海生氏は強調した。

 前出のシリコンチップ世界上位5位に入る中国PV企業の市場部の責任者は東方早報紙記者に対し、米国のPV産業を中国と比べると人件費が大きく上回っており、そのことが最も重要な鍵になると述べた。

 別のアナリストが東方早報紙記者に述べたところでは、価格面から見た場合、米国のPVのコストは中国より概ね20〜30%高い。阿特斯陽光電力科技有限公司の沈揚子氏は東方早報紙記者に対し、モジュールを例に取ると、中国の主要メーカーは概ね0.7ドル/Wであるが、米国は1ドル/Wなり、非常に差が大きいと述べた。

 弘亜世代の劉文平副総裁は東方早報紙記者に対し、「米国のPV生産コストが中国より高い点は一つや二つではない。もし相似性を云々するなら、基準に出来る第三国は台湾だろう。米国のPV製造業には大手2社があるが、技術路線は中国とは大きく異なり、何の参考にもならない。First Solarは薄膜技術だ。Sun Powerの技術は極めて複雑であり、効率は極めて高いが、コストも同じように高い。米国を第三国として基準にすると、中国のPV企業にとっては極めてまずい状況になることは間違いない」と述べた。

 「中国には対抗能力がない」

 グローバルPV産業チェーンにおける中国企業の位置づけには「ぎこちない」ところがある。そのため、EUに対して対抗措置を取ろうとしても力不足である。

 8月17日、江西賽維LDK光伏硅科技や江蘇中能硅業も含むPV大手数社は連名で中国商務部に対し、EUのポリシリコンに「反ダンピング・反補助金」調査を実施するよう提案した。商務部はこの提案を受理したが、しかし今に到るも立件するかどうか発表していない。これは中国が対抗する上で大きな武器になると見られている。

 中国商務部に近い権威筋が明らかにしたところでは、商務部は「すぐにでもEUのポリシリコンに対する『双反』(反ダンピング・反補助金)調査を発動するに違いない」とのこと。ポリシリコンはPV製品の主要原料である。

 しかし、某アナリストは、「中国のPV企業は下流の占める比重が極めて大きいのに対し、外国企業は上流の占めるところが極めて大きい。このような対抗策では自ら価格を高くして、自分の首を絞めることになる」と言う。

 中国が太陽電池パネルを製造するために必要な原材料、技術や設備の大部分は欧州等の先進的な国や地区から輸入されている。統計から明らかなように、2011年に中国はドイツからだけでも3.6億ドル相当の銀ペーストを輸入した。ポリシリコンの輸入に到っては7.64億ドルに達している。また、中国が近年ドイツやスイス等の欧州諸国から調達した生産設備は累計108億元になる。

 「これでは何の効果もない。中国のPV企業は中流に占める比重が極めて大きく、外国企業は上流に占める比重が極めて大きい。EUのポリシリコンに対する「反ダンピング・反補助金」は、中国が自ら進んで原料価格を高くするのも同然だ」と、王海生氏は考えている。外国企業が上流と下流の両端を占め、中国PV企業がその中で生存しているのでは、中国に対抗力がないのも当然である。

 EUのポリシリコンに対する中国の「反ダンピング・反補助金」を支持するのかどうかについて、英利の陳卓法務総監は、英利は支持しないという態度であると述べた。ポリシリコンはPV産業の重要原料の一つであり、長年一貫して輸入に頼っている。保利協●や賽維LDK等の企業がポリシリコンに手を染めたことに伴い、輸入のシェアは低下を続けているが、それでも昨年は依然として6万トン余りのポリシリコンを輸入した。もしEUのポリシリコンに反ダンピング税を課税すると、より大きな損害を受けるのは中国のPV企業である。

 Solar Worldの創業者でありCEOのFrank Asbeck氏の言い方によると、同社の財務状況が芳しくない主要な原因は自身の誤りにではなく、「中国企業の不法な競争がマーケットをかき乱した」ことにある。

 欧州委員会は9月6日、この案件の受理を決定し、中国企業に反ダンピング調査を展開することした。2013年6月までに基本裁決を下す見通しである。EUが反ダンピング関税の課税を判定すると、遡及して課税されることになる。

 ドイツのノエル弁護士事務所の法律専門家である趙輝氏は、中国のPV企業はEUの調査に対し、他人事だと思って拱手傍観してはならないと指摘する。なぜなら反ダンピング手続は基本的にそれぞれの企業を対象にするものだからである。そのため、いかなる企業といえども、自社の製品をダンピング製品リストから除外してもらい、あるいは反ダンピング税の課税を少なくしようとするなら、欧州委員会の反ダンピング調査に対し、全力を挙げて参与し説得するしかない。

 しかしながら、今回のEUの「反ダンピング」は思いもつかない駆け込み需要をもたらすかもしれない。

 劉文平氏によると、基本裁決が出るのは9ヵ月後であり、計画によると遡及期間は最大3ヵ月までになる。「こうして見てくると、我々には半年ほどの時間窓があると考えられる。欧州では駆け込み需要が生じるだろう。但し、それにもリスクがある。もし基本裁決が前倒しになったらということだ。今回の駆け込み需要はそれほど大きな規模にならないと見ているが、少なくとも価格の下落を緩和できるだろう。なぜなら欧州では中国のモジュールはすでに非常に安価になっており、事業も悪くない利益を上げることが出来るからだ」。

 (東方早報 9月7日)

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