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中国
【石油・天然ガス】

中国の天然ガス産業が直面する不確実要因 (15/07/17)
2015/7/27
中国【石油・天然ガス】

 世界の石油市場の大きな構造変化、石油価格の下落、GDP成長の減速に伴って、中国の天然ガス市場発展の外部条件にも変化が発生しつつある。国内の天然ガス生産能力、消費需要や価格改革等の要素には不確実性が付きまとい、《エネルギー発展戦略行動計画(2014〜2020年)》の発展目標を実現する上で大きなチャンレジに直面する。中国の天然ガス産業の発展にはすでに一定の基礎が備わっているが、産業政策の動向、課税と価格調節、監督管理システムの整備や技術イノベーションに対するインセンティブとサポートなどの面で依然様々な問題がある。

 天然ガスの開発と利用は中国のエネルギーセキュリティにとって重要な意義を有するのみならず、エネルギー構造の改善やクリーン・エネルギーの発展促進などの面でも意義は大きい。中国政府は天然ガスの発展を高度に重視し、一貫して国民経済発展の戦略として位置付けてきた。ここ10年、天然ガスは高速発展を実現し、整った産業体系を形成した。しかし、世界の石油市場の大きな構造変化、石油価格の下落、GDP成長の減速に伴って、中国の天然ガス市場発展の外部条件にも変化が発生しつつある。未来の天然ガス市場はどのような動向を示すのか、《エネルギー発展戦略行動計画(2014〜2020年)》(以下、行動計画と略す)が打ち出した天然ガス発展目標は実現できるのか、どのような不確実要因が存在するのかについては、研究と考察を要する。

 中国天然ガス市場の新たな特徴

1. 需要の持続的増加も鈍化し始めた伸び率

 2000〜2013年の中国の天然ガス消費量の年平均伸び率は16%に達し、中国のエネルギー消費総量に占める天然ガスの比率は2000年の2.2%から2013年には5.9%に上昇したが、ここ2年は天然ガス消費の伸び率が下がっている。2003〜2011年の年平均伸び率18.2%から、この2年は13.3%に下がり、2014年の天然ガス見掛け消費量の対前年比の伸び率はわずか8.9%にまで下がった。

2. 対外依存度の上昇と需給のアンバランス

 天然ガス対外依存度は2007年の5.7%から2013年には31.6%に急上昇し、2014年は31.7%になった。季節的変化や天然ガス使用量のピーク差は中国の天然ガス供給を保障する上で大きな課題である。華北地区の冬と夏のピーク差は5:1に達し、北京は10:1を超えている。

3. 価格改革の市場化に向けた流れは明確も監督管理システムに遅れ

 2011年末に国家発展改革委員会は広東と広西で天然ガス価格改革を実施して、現行のコスト加算を主とする価格決定方式をネットバリューバック法による価格決定方式に改め、市場の需給関係と資源の希少性を反映する価格システムを基本的に確立し、天然ガスと代替エネルギーの価格比較関係を合理化して、最終的に市場が天然ガス価格を決定する仕組みを形成するための基礎を打ち立てた。中国の天然ガス市場システムは目下発育期にあり、統一的な監督管理システムを確立することが求められる。天然ガス探査開発許可管理制度、天然ガスインフラ及び計画と使用に対する監督管理の整備や、健全な天然ガスパイプライン輸送タリフ、コスト算定に対する監督管理制度の確立などいずれも市場化の必要条件であるが、これらは中国の脆弱な部分でもある。
 
 行動計画目標の実現において直面する不確実要因

 行動計画は2020年の生産目標について、在来型天然ガス1,850億m3、炭層ガス300億m3とし、シェールガスを300億m3超として、一次エネルギー消費における天然ガスの比率を10%以上にするとしているが、中国の天然ガス産業の発展現状から見て、需給いすれにも伸び率の鈍化が現れており、行動計画目標の実現は大きなチャンレジに直面する。

1. 国内天然ガス生産能力の不確実性

 (1)在来型天然ガス増産の難度が上昇
 2020年の生産量は1,740億m3に達し、2020年までの年平均伸び率は6%になると予想される。タイトガスはポテンシャルが比較的高いが、価格等の面で制約があり、2020年の生産量は580億m3、年平均伸び率は8%になると予想される。技術進歩が顕著であり、政策措置が効を奏すれば、680億m3前後に達するが、それが叶わない場合、行動計画の在来型天然ガス生産量目標の1,850億m3を実現するのは難しい。

 (2)シェールガスは見通し良好も生産量は目標値に大きな差
 シェールガスには資源賦存や技術の問題があり、石油価格が低水準で推移するシナリオの下では、シェールガス開発の経済性は大きなチャレンジに直面する。2020年のシェールガス生産量は中国石油天然ガス集団(CNPC)が77.3億m3、中国石油化工集団(SINOPEC)が109.4億m3になると予想される。オルドス盆地やその他の地区のシェールガス開発が打開を遂げれば、2020年の全国シェールガス生産量は約200億m3になるが、行動計画の目標である300億m3との間には相当大きな差が生じる。

 (3)炭層ガスは苦境から脱却できず、生産量は予想を下回る公算
 中国の炭層ガスは、基礎研究で十分でなく、探査開発投資が深刻な不足を来たしている。鉱業権の重複やパイプラインなどインフラが脆弱であることも炭層ガス開発事業のコストとリスクを増大させている。2020年の炭層ガス生産量は合計270億m3、利用量は138億m3に止まると予想され、300億m3の行動計画目標とは一定の差がある。

 (4)SNGは先天的に不足 天然ガス市場を担うことは困難
 中国のSNG(代替天然ガス)は技術、経済性や環境等の面で困難と問題に直面している。比較的高い油価を前提に試算すると、環境保護や汚水処理、水資源コストといった要素を考慮に入れなければ、SNGは1m3当たり0.7〜0.8元の価格優位にあるが、事業の大多数は主要消費市場から離れてり、輸送コスト高い。加えて、油価下落によってSNGの価格優位は失われる可能性が高い。SNG生産1m3につき水消費量は6トンか、場合によってはそれ以上になるが、中国のSNG事業の多くは新疆や内蒙古など水資源不足地区に立地している。また、SNGの一次エネルギー消費とCO2排出は在来エネルギーに比べて高い。すでに4件のSNG事業が承認され、17件がプレスタディの展開を承認されているが、国の環境保護政策の動向と低い油価が大きな拘束になるに違いない。2020年においてもSNG事業は承認済みの4件に限られ、年産量は150億m3前後に止まると予想される。

2. 天然ガス消費の不確実性

 (1)GDP成長率の鈍化が天然ガス消費に影響
 未来の天然ガス市場の潜在成長力は主に天然ガス発電、工業用燃料、都市ガス及び交通用ガスの発展にあるが、国内経済成長の鈍化のため、これらの分野の天然ガス消費量の伸び率も鈍化することになる。

 (2)工業用ボイラーの「煤改気」はコストと都市ピーク調整能力によって制約
 環境保護圧力が高まる中で、ボイラーの「煤改気」(石炭から天然ガスへの燃料転換)需要のポテンシャルは極めて大きいが、コスト増のため、また大量の「煤改気」が天然ガスピーク調整圧力を増大させるため、工業用燃料の「煤改気」の発展規模は直接的な影響を受ける。例えば、北京・天津・河北地区の場合、改修費を計算に入れない燃料コストだけでも2020年には1,500億元増えることになる。「煤改気」を実施する場合と実施しない場合とでは、天然ガス需要の差は0.77億m3に上る。

 (3)都市化のスピードとガス化率は都市ガスの成長速度に大きな影響
 中国の都市化は毎年0.9ポイントの速度で急速に進み、2020年の都市化率は60%に達すると予想される。都市化率を高・中・低の3つのシナリオに分けて試算すると、2020年の中国の民生用天然ガス消費量はそれぞれ618億m3、560億m3、489億m3になり、比較的大きい差が生じる。

 (4)化学工業用天然ガス消費の伸び率が鈍化も発電用ガスの増加が天然ガス消費に大きな影響
 化学工業の天然ガス消費はすでに300億m3を超えているが、現行の価格水準の下では消費需要は抑えられる。《天然ガス利用政策》の最新版では、優先類に入っているのは供給中断が可能な水素製造事業だけであり、天然ガス由来メタノールは禁止類、天然ガス由来合成アンモニアや窒素肥料、小規模メタン合成燃料事業は制限類、その他が許可類である。化学工業用天然ガスは今後、価格や政策面からもより多くの制約を受けることになり、2020年の化学工業用天然ガス消費量は500億m3になると予想される。

 現行の価格では天然ガス発電は石炭火力発電に対して競争力はない。未来の天然ガス発電の発展は価格、財政・租税、環境保護等の政策支援に大きく依存し、電力価格改革とも密接に関わることになる。2020年の中国の発電用天然ガス消費量は515億m3になり、天然ガス消費に対して大きな影響を及ぼすと予想される。

 (5)代替エネルギーに対する天然ガスの価格競争力は消費に影響する重要な要素
 2014年12月の為替レートをもとに、原油価格を1バレル80ドル、70ドル、60ドルとして試算した場合、原油から天然ガスに置き換えた価格は1m3当たりそれぞれ3.02元、2.64元、2.26元になる。一方、2014年10月29日の環渤海一般炭価格は4500キロカロリーがトン385〜400元、5800キロカロリーが530〜550元であった。同一カロリーで計算すると、石炭から天然ガスに置き換えた場合の受入可能価格は0.73〜0.76元/m3と0.79〜0.82元/m3になる。天然ガスは石炭に対して価格競争力がない。

3. 天然ガス価格改革の不確実性

 当面の中国の天然ガス価格には主に次の3つの問題がある。

 第1に、天然ガス価格は市場情報を即時に伝達することが出来ず、資源の希少性を反映することも、住民の過度の消費を抑制することも出来ない。
 
 第2に、輸入天然ガス価格の逆さやが天然ガス供給企業に大きな圧力を及ぼしているが、天然ガス価格を上げると、電力や工業用需要家のコスト圧力を増やし、工業用燃料の「煤改気」のプロセスを制約することになる。

 第3に、工業用と都市住民用のガス価格関係が不合理である。国務院発展研究センターの研究によると、各地の住民用生活ガスの受入可能価格は2.64〜9.27元/m3、商業用は4.28〜4.91元/m3であるのに対し、工業燃料用は2.33〜4.96元/m3、ガス発電は0.73〜2.50元/m3である。都市住民の天然ガス価格受入能力は相対的に高く、住民の収入の増加に伴って、住民用天然ガス価格を適正に引き上げたとしても、全体として住民用天然ガス需要に影響することはない。

 それ以外にも、行動計画目標の実現において直面する不確実要素として、以下の諸点が挙げられる。

1) 国際油価の下落により天然ガス需給市場の不確実要因が増大。
2) 住民用と工業用の関係を合理化するタイムスケジュールが未確定であり、天然ガス需要を牽引する原動力が不足。
3) 炭素排出をめぐる拘束的政策。排出指標、炭素税、炭素排出権取引等の措置の不確実性が石炭に対する制限と天然ガス増加の不確実性を増大。
4) エネルギー改革、特に電力及び電力価格改革のプロセスが天然ガス消費に影響。

 2020年には中国の天然ガス供給能力は3,760億m3に達し、うち国産天然ガスが2,360億m3、輸入天然ガスが1,400億m3になると予想される。国産天然ガスと行動計画目標には240億m3の差が生じる。2020年の天然ガス消費量は約3,100億m3になると予想され、行動計画の目標3,600億m3を500億m3下回ることになる。

 対策と建議

 中国の天然ガス市場は目下成長期にあり、国民経済は下振れ圧力の下にある。一方、中国政府は世界に炭素排出削減目標を宣言し、エネルギー構造調整が必然の流れになる。そうした状況にあっては、成長と排出削減のいずれの見地からも、天然ガス需要の停滞を生じさせてはならない。そのため、天然ガス市場の発展に強靭な動力を注入しなければならない。行動計画目標の実現に向け、すでに一定の発展基盤、資源条件や市場ポテンシャルが備わっているが、当面の最大の課題は、政府の産業政策指針、課税及び価格調節、監督管理システムの整備及び技術イノベーションに対するインセンティブとサポートである。そのための具体的な対策と建議は次のようになる。

1. 体制と仕組みをさらに刷新し、天然ガス探査開発を強化する。
 鉱業権管理の強化、探鉱権返上の仕組みの厳格化、鉱業権取引市場の確立、鉱業権の移転の促進、投資主体の多元化、民間資本の非在来型ガス開発の奨励、地方政府と企業の出資協力、リスク探査基金の設立、非在来型資源への科学技術投資の拡大、財政・租税政策の差別化、タイトガス開発に対するインセンティブ、シェールガスと炭層ガスに対する政策的インセンティブの堅持など。

2. 天然ガス価格制度改革を強力に推進する。
 ガス価格の一本化、住民用累進価格制の実施、季節別及び時間帯別のピーク・オフピーク価格の仕組みの確立と価格面からのピーク調整問題の解決、輸入ガスと国産ガス及び工業用ガスと住民用ガスの関係の合理化、天然ガス市場システムの整備、石油と連動する価格形成の仕組みの堅持と石炭を参照する価格インデックスの追加など。

3.天然ガス産業に対する調節と監督管理を強化する
 省エネ・排出削減と「煤改気」の政策調整の強化、統一的な監督管理体制の確立、統一的な監督管理標準や法規、制度の制定、天然ガスパイプライン網に対する計画並びに監督管理の強化、天然ガスパイプラインの公共サービス機能の強化、天然ガスパイプラインの第三者への開放、天然ガス市場の育成に対する業界団体の仲介作用の発揮、透明性の高い天然ガス及び都市ガス情報統計開示システムの確立など。

 (国際石油経済・中国能源網 7月17日)