5月6日に天津浜海新区開発委員会の関係者が明らかにしたところによると、中露合弁の天津大型製油所プロジェクトは先頃、天津浜海新区の溏沽で正式に着工された。 同製油所は中国石油天然ガス集団(CNPC)とロスネフチが合弁で建設する。プロジェクト実施のため、両社は中露東方石化(天津)有限公司という合弁会社を設立した。ロスネフチのボグダンチコフ社長によると、同製油所の年産能力は石油製品1,000万トン、総投資額は40億ドルに上る。 天津大型製油所事業が実施に移されるにつれて、中露エネルギー協力における上流分野と下流分野の交換という戦略モデルが徐々に姿を現し始めた。 天津から始まるロシアの中国エネルギー下流市場への参入 中露東方石化(天津)有限公司はCNPCが株式の51%を有し、ロスネフチが49%を占める。2007年末には取締役、監査役や管理職の人事が確定し、天津で登記された。 ボグダンチコフの説明では、製油所の要する原油は公開市場から調達し、製油所の利益率は30%以上になる。製油所が操業を開始すると、東方石化は華北地区に300軒のサービスステーションも建設する予定である。 ロシアが中国のエネルギー市場の下流領域へ参入する第一歩を天津に印したことには、様々な背景がある。同プロジェクトを長らく見守ってきた天津経貿大学経済学部の張雪峰副教授は、天津大港石化公司など、天津には石油化学工業の基盤があり、石油精製の技術や人材が豊かであることを指摘する。また、天津浜海新区の発展も中露合弁の大型製油所にとって大きな地ならしとなっている。 何よりも重要なのは天津の地理的位置である。中国石油大学エネルギー戦略研究センターのパン昌偉教授の説明によると、中露間の石油パイプライン(東シベリア−太平洋石油パイプライン中国支線)の竣工はすでに2009年末以降に先延ばしになり、具体的な竣工時期さえ遅々として確定していない。一方、中国が現在ロシアから石油を輸入する主要ルートである鉄道輸送の方は運賃の高騰やロシア鉄道の戦略的調整など様々な要因により、輸送量は2007年に前年比9%減少した。結局、安定性や価格的優位のため、タンカーによる輸送が最も優れた輸送手段となっているが、この点で、天津港は中国がロシアから海運によって石油を輸入する主要な港湾になるだろう。 投資条件としての上流と下流の交換 中露合弁の天津製油プロジェクトの由来は2006年に遡ることが出来る。その年、中露はエネルギー協力協定に調印した。同協定に基づいて、中国のエネルギー市場の下流分野とロシアのエネルギー市場の上流分野の交換が進められるようになった。その後の一連の共同投資事業はこの協力協定に由来するものである。 2006年3月には、CNPCとロスネフチは同年末に中国とロシアにそれぞれ合弁会社を設立して、上流と下流の業務を経営すると発表した。 両社が合弁でロシアに設立したのが東方エネルギーであり、ロシア側の持ち株は51%、中国側は49%である。東方エネルギーはロシアにおける地質探査とエネルギー事業への融資を主要業務とする。同時に、CNPCは7月、ロンドン証券取引所で5億ドルを投じてロスネフチの株式6,622万株を買収して、ロスネフチの戦略投資家となった。買収の条件はロシアの上流分野の参入とバンコール油田の共同開発である。 一方、CNPCと並ぶ中国の石油メジャーである中国石油化工(SINOPEC)もまた、ロシアのエネルギー上流分野で巨額の投資を進めていた。2006年6月、SINOPECとロスネフチは提携して入札に参加し、ウドムルト石油の株式の96.9%を共同買収した。これは中露の石油企業間で最も大きい提携事業である。 中国の石油企業がロシアのエネルギー上流市場に参入する際の条件は、中国のエネルギー下流市場を開放し、中国で中露合弁の製油所を設けることであった。 この原則に基づいて、中国の巨大エネルギー公司がロシアのエネルギー上流市場に大挙参入すると同時に、ロシアのエネルギー企業も中国市場へのアクセスを開始した。天津大型製油所プロジェクトはそうした試みの第一歩なのである。 中露間独特のエネルギー協力モデル 中国は石油輸入の60%をペルシャ湾地域に依存している。そのため、中国はエネルギー多元化戦略をロシアと中央アジアに向けており、エネルギー協力の拡大は中露の戦略的協力パートナーシップの物質的基盤になっている。 しかし、ロシアは2006年を境にエネルギー戦略を改めるようになった。ロシアは単純なエネルギー輸出国の地位から脱却しようとする傾向を強めたのである。エネルギー産業をロシアの重要な産業と位置づけ、国際エネルギー協力においても、平等互恵の原則に基づき、外国側のパートナーに対して、ロシアが重要だと考える分野をロシアにも開放するよう求めるようになった。資源と市場の交換、資源と技術の交換、そして上流と下流の交換というモデルは、今後ロシアの石油・天然ガス分野において多国間投資協力の主要な形式になるだろう。それは同時に外国がロシアの石油・天然ガス上流分野に参入する前提条件になるだろう。 一方、ロシアはこれまでの原油輸出から国内の原油精製へと方針を転換しつつある。原油輸出を減らし、石油製品の輸出を拡大することはロシアのエネルギー戦略のもう1つの側面になっている。前出のパン昌偉教授は、ロシアが中国のエネルギー精製分野に大きな関心を有するようになったのは、こうした政策傾向の変化によるものであると考えている。「中国がエネルギー下流分野をロシアの上流分野と交換することは、実際には市場をエネルギーと交換するものだ。このような上流と下流の市場交換のモデルは中露間の戦略的パートナーシップに基づくエネルギー協力モデルの模索の一種である」と言う。 もっとも、この種のモデルは中露間にだけ存在する独特のケースである。パン昌偉教授は、こうしたモデルは「中露両国の地理的位置や両国の戦略的協力パートナーシップなど多重的な要因によるものであり、普遍性はない」と指摘した。 (21世紀経済報道 5月7日) パン…床の木を龍に
5月6日に天津浜海新区開発委員会の関係者が明らかにしたところによると、中露合弁の天津大型製油所プロジェクトは先頃、天津浜海新区の溏沽で正式に着工された。
同製油所は中国石油天然ガス集団(CNPC)とロスネフチが合弁で建設する。プロジェクト実施のため、両社は中露東方石化(天津)有限公司という合弁会社を設立した。ロスネフチのボグダンチコフ社長によると、同製油所の年産能力は石油製品1,000万トン、総投資額は40億ドルに上る。
天津大型製油所事業が実施に移されるにつれて、中露エネルギー協力における上流分野と下流分野の交換という戦略モデルが徐々に姿を現し始めた。
天津から始まるロシアの中国エネルギー下流市場への参入
中露東方石化(天津)有限公司はCNPCが株式の51%を有し、ロスネフチが49%を占める。2007年末には取締役、監査役や管理職の人事が確定し、天津で登記された。
ボグダンチコフの説明では、製油所の要する原油は公開市場から調達し、製油所の利益率は30%以上になる。製油所が操業を開始すると、東方石化は華北地区に300軒のサービスステーションも建設する予定である。
ロシアが中国のエネルギー市場の下流領域へ参入する第一歩を天津に印したことには、様々な背景がある。同プロジェクトを長らく見守ってきた天津経貿大学経済学部の張雪峰副教授は、天津大港石化公司など、天津には石油化学工業の基盤があり、石油精製の技術や人材が豊かであることを指摘する。また、天津浜海新区の発展も中露合弁の大型製油所にとって大きな地ならしとなっている。
何よりも重要なのは天津の地理的位置である。中国石油大学エネルギー戦略研究センターのパン昌偉教授の説明によると、中露間の石油パイプライン(東シベリア−太平洋石油パイプライン中国支線)の竣工はすでに2009年末以降に先延ばしになり、具体的な竣工時期さえ遅々として確定していない。一方、中国が現在ロシアから石油を輸入する主要ルートである鉄道輸送の方は運賃の高騰やロシア鉄道の戦略的調整など様々な要因により、輸送量は2007年に前年比9%減少した。結局、安定性や価格的優位のため、タンカーによる輸送が最も優れた輸送手段となっているが、この点で、天津港は中国がロシアから海運によって石油を輸入する主要な港湾になるだろう。
投資条件としての上流と下流の交換
中露合弁の天津製油プロジェクトの由来は2006年に遡ることが出来る。その年、中露はエネルギー協力協定に調印した。同協定に基づいて、中国のエネルギー市場の下流分野とロシアのエネルギー市場の上流分野の交換が進められるようになった。その後の一連の共同投資事業はこの協力協定に由来するものである。
2006年3月には、CNPCとロスネフチは同年末に中国とロシアにそれぞれ合弁会社を設立して、上流と下流の業務を経営すると発表した。
両社が合弁でロシアに設立したのが東方エネルギーであり、ロシア側の持ち株は51%、中国側は49%である。東方エネルギーはロシアにおける地質探査とエネルギー事業への融資を主要業務とする。同時に、CNPCは7月、ロンドン証券取引所で5億ドルを投じてロスネフチの株式6,622万株を買収して、ロスネフチの戦略投資家となった。買収の条件はロシアの上流分野の参入とバンコール油田の共同開発である。
一方、CNPCと並ぶ中国の石油メジャーである中国石油化工(SINOPEC)もまた、ロシアのエネルギー上流分野で巨額の投資を進めていた。2006年6月、SINOPECとロスネフチは提携して入札に参加し、ウドムルト石油の株式の96.9%を共同買収した。これは中露の石油企業間で最も大きい提携事業である。
中国の石油企業がロシアのエネルギー上流市場に参入する際の条件は、中国のエネルギー下流市場を開放し、中国で中露合弁の製油所を設けることであった。
この原則に基づいて、中国の巨大エネルギー公司がロシアのエネルギー上流市場に大挙参入すると同時に、ロシアのエネルギー企業も中国市場へのアクセスを開始した。天津大型製油所プロジェクトはそうした試みの第一歩なのである。
中露間独特のエネルギー協力モデル
中国は石油輸入の60%をペルシャ湾地域に依存している。そのため、中国はエネルギー多元化戦略をロシアと中央アジアに向けており、エネルギー協力の拡大は中露の戦略的協力パートナーシップの物質的基盤になっている。
しかし、ロシアは2006年を境にエネルギー戦略を改めるようになった。ロシアは単純なエネルギー輸出国の地位から脱却しようとする傾向を強めたのである。エネルギー産業をロシアの重要な産業と位置づけ、国際エネルギー協力においても、平等互恵の原則に基づき、外国側のパートナーに対して、ロシアが重要だと考える分野をロシアにも開放するよう求めるようになった。資源と市場の交換、資源と技術の交換、そして上流と下流の交換というモデルは、今後ロシアの石油・天然ガス分野において多国間投資協力の主要な形式になるだろう。それは同時に外国がロシアの石油・天然ガス上流分野に参入する前提条件になるだろう。
一方、ロシアはこれまでの原油輸出から国内の原油精製へと方針を転換しつつある。原油輸出を減らし、石油製品の輸出を拡大することはロシアのエネルギー戦略のもう1つの側面になっている。前出のパン昌偉教授は、ロシアが中国のエネルギー精製分野に大きな関心を有するようになったのは、こうした政策傾向の変化によるものであると考えている。「中国がエネルギー下流分野をロシアの上流分野と交換することは、実際には市場をエネルギーと交換するものだ。このような上流と下流の市場交換のモデルは中露間の戦略的パートナーシップに基づくエネルギー協力モデルの模索の一種である」と言う。
もっとも、この種のモデルは中露間にだけ存在する独特のケースである。パン昌偉教授は、こうしたモデルは「中露両国の地理的位置や両国の戦略的協力パートナーシップなど多重的な要因によるものであり、普遍性はない」と指摘した。
(21世紀経済報道 5月7日)
パン…床の木を龍に