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中国
【省エネ・環境】

【論説】政治に翻弄される「緑のGDP」(07/07/26)
2007/11/22
中国【省エネ・環境】

中国31の省・直轄市・自治区と42部門の環境汚染の実際量、模擬管理コスト、環境退化コストなどの統計分析結果が盛り込まれた2005年「緑のGDP」のデータは、今年3月の公表が予定されていた。しかし、公表は先延ばしにされ、いまや無期延期状態となっている。「緑のGDP」が中国の環境保護にとって指針となることは疑いないにもかかわらず、その推進は長い道のりになると予想される。

環境と健康

先頃発表されたOECDの『中国環境パフォーマンスレビュー』によると、中国で2.7億人以上の都市住民は、大気水準が基準に達していない環境の中で暮らしおり、主要都市の約半数は飲用水の水質が基準に達していない。主要な汚染源は糞尿の排出であり、工業汚染、農業化学汚染も深刻である。

海外メディアの報道によると、世界銀行の報告書の中には、中国では毎年約75万人が都市の大気汚染によって早死にするという一節があったが、国家環境保護総局と衛生部は世界銀行に対して、このデータを報告から削除するよう求めた。

環境部門は「環境政策の最大の障害は地方である」と報告している。なぜなら、中国の地方環境保護部門は、組織的にも財政的にも地方政府に隷属し、行政権力の面も他の部門に比べ脆弱であり、一方、地方政府は、環境問題よりも経済発展を重視するからである。

なお、同報告書は、国家環境保護総局を環境部(省)に格上げして、地方の環境保護局に対する監督管理能力を強化するよう提言している。

「緑のGDP」が公表されない表向きの理由

 難産の末に誕生した「緑のGDP」のデータも最後の命運を迎えつつある。「緑のGDP」の作成に参加した主要機関の1つである国家統計局は、技術的要因によりこれらのデータを未だ公表できないとした。国家統計局は、「緑のGDPの試算、特に価値量の試算は理論と方法、いずれの面もまだ成熟しておらず、国際的にも大きな論議を呼んでいる。実際の運用も極めて難しい作業である。どの国の政府も未だ価値量の試算結果を公表したことがない」とした。

『総合環境と経済試算(緑のGDP)の研究』プロジェクト技術チームの専門家である王金南氏は、「緑のGDP」が未だ公表できない理由には関係部門の間で公表の内容と方法をめぐって見解の相違があることを明かした。王金南氏は、環境保護総局と統計局が進めている環境汚染経済試算は「緑のGDP」の一部分に過ぎず、完全な意味での「緑のGDP」の試算というわけではないが、こうしたデータによって中国の現在の環境情勢を説明することは的外れではないとの認識を示し、こうしたデータを公表することによって、地方経済の発展過程において資源・環境を犠牲にして結局いかほどの経済成長を成し遂げたのかを明確に示し、そのことを地方政府の官僚に理解させるのに役立つとした。また、同氏は、国際的に未だ成熟したノウハウがないからといって、中国がそれをできないわけではないと述べた。

国家統計局の表明に対し、世論も大きな関心を示したが、次の点では認識が一致していた。すなわち、経済発展と環境損失の関係を比較考量する試算基準を確立することが必要であり、「緑のGDP」のデータが定性であれ、定量であれ、また、正確であれ、粗略であれ、経済発展と環境資源の間にある種の対比関係を立てることは、政府、企業と民衆の発展、生産と消費をめぐる政策を決定する上で有益である。

地方政府の抵抗

2005年初頭、国家環境保護総局と国家統計局は10省・直轄市において環境試算と汚染による損失の調査を目的とした「緑のGDP」を試験的に実施したが、試験を実施した省・直轄市は環境保護総局と国家統計局に対し、結果を公表しないよう求めた。

王金南氏によると、「緑のGDP」は観念の深刻な転換を意味しており、それがいったん実施されると、人々の心の中にある発展の意味内容や発展を推し量る基準も転換せざるを得ない。また、環境損失コストを差し引くことになれば、地方経済の成長率は大幅に低下することになり、マイナス成長になる地方も出てくる。「緑のGDP」が中国で抵抗に遭っているのは、それによってゲームのルールが変更になるからである。多くの地方政府は依然GDP至上主義であり、こうした観念が支配する下では「緑のGDP」に対する抵抗も極めて大きい。

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【解説】
「緑のGDP」とは、GDPを試算する際に、土地、鉱物資源、水資源、森林資源や環境汚染の損失を考慮に入れる試算方法の一種。専門家によると、「緑のGDP」は、基本的にGDPから環境・資源コストや環境保護費用を差し引いいたものであり、経済発展の過程における環境の代償を明確化するものである。王金南氏は、「緑のGDP」の意義として、(1)汚染の実際量と環境汚染による損失コストを明確にし、環境汚染対策や排出削減対策を策定する上での根拠となる、(2)どの部門やどの地方が資源多消費地区であるのか、あるいは環境汚染や生態破壊地区であるかが分かり、政府が対策を取る上で役立つ、(3)環境税、生態補償や幹部の業績評価制度などの政策を策定する上で根拠となる、の3点を挙げている。

2005年、国家環境保護総局と国家統計局が10省・市を対象に環境試算と経済損失の調査を中心とする「緑のGDP」試算を試験的に実施、2006年にGDPから環境退化コストを差し引いた2004年「緑のGDP」を初めて公表、2004年の大気汚染と水質汚染のコストは5,120億元に上り、その年のGDPの3.05%を占める結果となった。

2005年度の「緑のGDP」に当たる『環境と経済試算の研究』はすでに完成し、全人代閉幕後に公表が予定されていたが、延期となった。2006年度の試算は目下進行中である。

(新浪財経 7月26日)