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【石炭】

中国の石炭化学工業が水資源不足や炭素排出税で危機に直面 (14/09/15)
2014/9/18
中国【石炭】

 中国の石炭化学工業は引き締め政策と緩和政策が交錯する中、10年余りにわたる熱狂的な発展を経て、今や世界最大の規模になった。

 しかしながら、昨年以降緩和が進んだ中国の石炭化学工業政策は現在再び引き締め政策に転じている。国家能源局は通達を出して石炭化学工業の過熱的な開発と過剰な水使用の抑制に乗り出すとともに、《西部地区奨励類産業リスト》から西部の石炭化学事業を全て撤回した。

 従来は国が厳しく規制しても投資家は石炭化学工業に対する情熱を維持したが、今回はそれとは様相を異にする。長年の投資の収穫期を迎えようとする段になって、大唐のような電力大手や中国海洋石油(CNOOC)に代表される石油化学メジャーも含め、エネルギー大手企業は次々と石炭化学事業から撤退しようとしている。さらに注目されるのは、多くのプロジェクトが水不足によって停止に追い込まれていることである。

 石炭化学企業の関係幹部の多くは同じような懸念を示している。すなわち、石炭化学工業は技術と投資をめぐる難題に直面しているにも関わらず、水資源や炭素排出税の課税等の面で国の政策は不明朗であり、そのことが企業には「ダモクレスの剣」(一触即発の危険な状態の例え)としてのしかかっている。

 しかしながら、中央企業の撤退の意向や国の政策の不確実性にも関わらず、依然として石炭化学工業の下流事業を抱える民営企業は、これを機に石炭化学工業の「パイ」にありつこうとしている。もっとも、これが望ましい「パイ」なのか、それとも予測の付かない深い「落とし穴」なのかは疑問である。

 承認された事業の多くが流産も

 2013年初めから今年初めにかけて、中国石油化工(SINOPEC)など大手エネルギー企業も含む石炭化学事業の総投資額は約5,000億元に達し、合計22件の石炭化学事業が国家発展改革委員会からプレスタディの展開を承認された。一方、各地方が発展改革委員会に承認を申請した石炭化学事業は104件に達し、総投資額は2兆元前後になると見られる。

 国家能源局は今年初め、内部諮問会議を開き、2020年に石炭液化油生産能力を3,000万トンとし、SNG(石炭ガス化ガス)を500億m3とする目標を打ち出した、

 これは業界から史上空前の計画と見なされ、石炭化学工業の熱狂的なゲームが直ちに開幕するかに見えた。

 しかし、それからわずか9ヵ月後、国家能源局が7月17日に公布した通達が大きな波紋を投げかけた。この通達は、年産20億m3以下のSNG事業と年産100万トン以下の石炭液化事業の許認可を行わないと強調するととともに、石炭化学事業の過熱する無秩序な建設と過度の水使用を規制しなければならないとした。

 新疆の石炭化学工業に関わる企業の総経理である王強氏(仮名)は、この通達について、2006年の通達と同様に国が石炭化学工業の過熱を規制する通達であり、2006年の時は石炭化学工業全体に極めて大きな影響を与えたと指摘する。

 石炭化学企業をさらに失望させたのは、7月の通達から1ヵ月後に国家発展改革委員会が《西部地区奨励類産業リスト》から西部の石炭化学事業を全て撤回したことである。これは、石炭化学工業に15%の企業所得税優遇措置が最早適用されることはなく、25%の税率が適用されることを意味する。

 ICIS中国法人の首席アナリストである唐敏氏によると、国は石炭化学事業のプレスタディの実施を承認するたびに、企業に対し着工に当たり廃水のゼロエミッションと水計量を義務付けてきた。そのため、承認されたものの最終的に着工を許可される事業は4分の1に止まると見られる。

 前出の王強氏によると、国は企業のプレスタディ実施を承認しておきながら、一方では水計量と廃水のゼロエミッションというハードルを設定し、そのため多くの事業はプレスタディを承認されても、着工許可にはほど遠く、最終的に着工が難しい事業は多数に上る。また、水資源の確保ができないためFS過程で停止を迫られ、流産の憂き目になった大型SNG事業もある。

 中投顧問エネルギー産業研究員の宛学智氏によると、石炭化学事業の許認可手続きは煩雑であり、発展改革委員会、能源局、環境保護部、水利部、地方政府等が事業化、エネルギー、環境保護、水使用、土地使用など様々な面で承認を行い、環境保護部が事業の環境アセスメントで意見書を公示してから、申請人や利害関係者は所定の期間内に公聴を申請するこができ、その後になってようやく環境保護評価プロセスの終了が宣言される。

 着工した事業でも水不足で停止になったケースも

 最近、内蒙古と寧夏の石炭化学事業の建設が水不足によって停止になったケースもある。その大多数は中小規模の事業である。業界の権威筋によると、今後このような建設工事の停止はもっと多くなるだろう。

 王強氏によると、これまで事業の水資源の実証や環境アセスメントは粗雑であり、地方政府が一定の給水枠によって企業を誘致しようとし、もっと多くの事業を誘致しようとする余り、現地の水資源は他の事業によって占められ、事業が立ち行かない例もある。

 石炭化学事業計画が集中する陝西省楡林市では矛盾がさらに先鋭化している。楡林市発展改革委員会に近い関係者によると、楡林市の某県が100万トンの石炭液化事業を誘致しようとしたが、事業が大規模なため水使用枠が届かず、県政府は最終的に石炭化学工業の水使用枠を全てこの事業に充てることでようやく実現にこぎつけたとのことである。

 今年初めに黄河水利委員会規画計画局が「窟野河流域総合規画環境影響評価」第2回情報開示において明らかにしたところでは、黄河の支流である窟野河は内蒙古のオルドスを源流とし、オルドス、楡林の2市・6県を流れているが、国家級重点エネルギー化学工業基地の建設スピードが速すぎるため、水資源不足とのギャップが突出した問題になり、水をめぐる紛糾が増え、水質汚染も深刻化している。

 楡林市水利局の関係者によると、《楡林市人民政府の最も厳正な水資源管理制度の実施に関する指導意見》が今年末までに施行される予定である。

 環境保護部環境規画院の研究員によると、西部の水資源不足は石炭化学工業の発展にとって最大の制約要因になっており、同研究員は環境保護部局の関係者として石炭化学工業を大規模に発展させないことを希望すると表明した。石炭化学工業の「三廃」(廃水・排気・残渣)排出による環境汚染も深刻化している。

 注目されるのは、楡林市政府の強力なサポートの下で10年間にわたる環境アセスメントにようやくパスした神華とダウ・ケミカルの楡林石炭化学事業が今年になって「夭折」の風聞が伝わったことである。協力相手側のダウ・ケミカルはすでに撤退し、神華集団は今さら降りるわけにも行かず、単独飛行を開始した。

 前出の神華に近い業界関係者によると、神華楡林石炭化学事業は政府高官も早くから関心を寄せており、プレスタディでは国内外の著名コンサルティング会社を招いてFSを進めた。地方政府と神華の投資額が極めて大きく、そのためこの事業は神華の単独飛行になっても継続しなければならない。

 国の政策が突然引き締められたり緩和されたりする中で、すでに稼動している神華オルドス石炭液化事業と包頭SNG事業が業界内では成功のベンチマークとされているが、依然として水不足や環境汚染の問題が付きまとい、楡林石炭化学工業集中区の神華の石炭化学事業も暗い運命を予感させる。

 中央企業は相次いで撤退

 水資源や環境汚染が石炭化学工業の発展を制約しているが、その他にも技術の未熟と巨額の投資のため、早い時期から石炭化学工業に参入した中央企業に撤退の兆しが生じている。興味深いことに、発展改革委員会がプレスタディの承認を一挙に行った正にその時、石炭化学工業の先駆者である大唐集団、国電集団や華能集団といった電力大手にいずれも撤退の兆しが生じ、また、CNOOCのような石油ガス大手にも石炭化学事業撤退の兆しが表れ始めたことである。一方、これとは全く対照的に多くの民営企業は石炭化学事業に対する高い情熱を示し始めた、

 大唐集団は石炭化学工業に進出した電力企業の典型例であり、13年にわたって巨費を投入した挙句、最終的には石炭化学事業の再編という災厄に見舞われた。8月28日、大唐発電は上半期の財務報告を発表し、2014年上半期までに石炭化学工業部門へ非公募資金を600億元近く投入したが、同社の大規模石炭化学事業3件で商業運営を開始した事業は未だにないことを明らかにした。また、同社の今年上期の石炭化学部門の赤字は13.67億元、前年同期の2.65倍に拡大し、資産負債率は84.69%に上っている。1ヵ月余り前に大唐発電は石炭化学工業部門と関連業務の再編に中国国新控股有限責任公司の資本を受け入れると発表していた

 一方、国電集団は今年初めから傘下の石炭化学事業や石炭等の関連事業を売りに出し、華能集団も4年余りにわたって新疆のSNG事業の技術論証を行ってきたが、未だに実施に移そうとはしていない。

 唐敏氏の分析によると、大唐等の電力企業は異業種の石炭化学工業に参入したが、そもそも技術の蓄積がなく、最適な管理モデルもなく、あるのは石炭価格が高かった頃に取得した上流の炭鉱資源だけである。然るに、地方政府からは石炭資源があれば大規模な石炭化学工業政策の適用を受けて石炭化学工業にされたが、これは戦略的失敗であった。CNOOC等の石油化学企業も事業の戦線を縮小し、石炭化学工業から次々と撤退している。

 前出の王強氏によると、撤退の兆しを示している中央企業とは逆に、伊泰集団のような有力な民営企業の多くは石炭化学工業に対する情熱を高めている。今年6月、伊泰集団は4件のSNG事業の設備入札執行を公告した。これは大規模事業の前奏曲になる。前出の石炭化学工業に詳しい関係者の分析によると、水資源と環境汚染という不確実性の高いリスクはあるものの、石炭化学工業の収益能力には相当のものがあり、神華の包頭SNG事業の利益率は10%以上であり、年間の純益は10億元以上に上る。

 しかしながら、西部の石炭化学工業は熱狂の渦の中で、国の高層レベルの政策の突然の変化や、地方政府の経済発展と環境保護圧力のジレンマ、企業の利益追求の本性と政府の環境保護行政監督管理の遺漏など様々な制約に直面しており、その行方は不透明である。

 王強氏は、国の水資源と炭素排出税課税政策が次第に明朗になれば、石炭化学工業のブームも5年以内に理性を取り戻すだろうと述べた。

 (経済観察報 9月15日)