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中国
【エネルギー全般・政治経済】

【論説】米国の教訓から学ぶべし エネルギー価格統制を短期的なインフレ抑制手段にしてはならず (08/01/28)
2008/1/29
中国【エネルギー全般・政治経済】

 エネルギー価格統制をインフレ対策の手段にしてはならず
 林伯強

 米国は1930年以降エネルギー統制を実施し、消費者保護と輸出産業保護の見地から国内エネルギー価格を市場価格水準以下に維持していた。価格統制によって米国の国内石油価格は1974年から国際市場価格を下回るようになり、米国は輸入石油に対する補助金交付の措置を取った。しかし、米国国内の安価な石油価格は国内石油生産量の低下と石油消費の拡大を招き、石油消費の急激な膨張の結果、米国は世界最大の石油輸入国となった。

 米国がエネルギー価格統制をようやく改めたのは第2次オイルショックによる国際油価の高騰が進んでからである。1981年、レーガン大統領は国内原油価格に対する統制を止め、国内外の油価が連動した。そのため、米国本土の原油生産が刺激され、輸入が低下した。さらに、米国が新たな石油供給国として出現したため、国際原油価格は急激に低下し、1985年11月に1バレル32ドルであったのが、翌年2月には10ドルに下がった。

 米国のエネルギー統制政策は長期エネルギー戦略にとってはポジティブな効果を発揮した。エネルギー統制政策によって、国内原油企業の収益は低下し、高コストの油井は閉鎖に追い込まれ、国内石油生産量が圧縮される一方、米国のエネルギー企業は国際市場に向かい、多国籍経営を進めた。このため、米国は低廉な価格で国外の石油資源を利用することが可能になり、国内エネルギー資源を温存することになった。

 しかしながら、エネルギー価格を低く統制することで、エネルギー消費が刺激され、消費者も企業も省エネのインセンティブを欠いていた。その結果、米国のエネルギー効率、省エネ技術や省エネ製品使用率は欧州や日本よりも低いままとなった。2006年の米国のGDPは世界の27.3%を占め、エネルギー消費は世界の21.4%を占めたが、一方、日独英仏4カ国のGDPの合計は世界の24.5%を占めながら、エネルギー消費は世界総量のわずか12.3%であった。

 米国の80年代のエネルギー価格政策は中国の現行政策に酷似している。米国の教訓から明らかなように、エネルギー価格を低く抑える政策はエネルギー消費の急増や効率の低いエネルギー使用をもたらす。この数年、中国のエネルギー価格改革は、強化されはしたものの、進展が遅く、石油、天然ガス、電力の価格は依然として政府が決定しており、国際的に通用している市場による価格決定の仕組みとは大きくかけ離れている。資源税も低すぎるため、エネルギーの不足度を反映させることが出来ない。エネルギー価格は、生産コスト以外の、安全コスト、環境コストといった社会コストを十分に反映することが出来ないままである。その結果、米国と同様に、需要の急増と相対的に低いエネルギー効率という結果を招いている。

 中国は人口が多く、1人当たりの収入が低い。そのため、エネルギー問題と環境問題は米国よりもさらに深刻になる。

 省エネと排出削減は最優先の任務であり、2つの次元から進めるべきものである。第1は、市場による解決。つまり、市場によるエネルギー価格の決定と資源税によって企業と個人を省エネ・排出削減に駆り立てるのである。第2は、市場では解決できない外部的問題。これは、省エネ・排出削減基金、グリーン融資など政策による解決を要する。しかし、第1の次元における省エネ・排出削減こそが決定的な鍵となるにも関わらず、エネルギー価格の改革が遅々として進まない状況では、省エネ・排出削減の重点は第2の次元のみに止まらざるを得ない。

 エネルギー法草案の規定によると、中国はエネルギー市場の需給関係、資源の不足程度、環境損害コストを反映するという原則に従って、市場による調節と政府による調整を互いに結びつけ、市場による調節が主導するエネルギー価格形成の仕組みを確立することになる。市場による調節が主導するエネルギー価格形成の仕組みは法的形式により規定されるが、改革は困難を極め、改革のプロセスを加速することは難しい。

 エネルギー価格を人為的に低く抑えると過度の消費をもたらす結果となり、そのことは中長期的にはインフレの潜在要因となる。エネルギー価格統制を短期的なインフレ抑制手段としてはならない所以である。

 1973年のオイルショックによって米国は経済に対するエネルギーの重要性とエネルギーの不足性を認識するようになり、それがエネルギー省の設立につながった。エネルギー省はエネルギー産業の統一管理と戦略計画が進め、エネルギー戦略は前衛性を備えることになった。一方、中国のエネルギー法草案でも、国務院エネルギー主管部門が全国エネルギー業務を統一管理し、その他の関係部門は各自の職責の範囲内において関連するエネルギー管理の責務を負うと規定している。つまり、エネルギー主管部門が設けられ、エネルギー価格改革がエネルギー戦略の重要な一環になる日も遠くないだろう。

 (中証網 1月28日)