1. HOME
  2. 中国 【省エネ・環境】

中国
【省エネ・環境】

【論説】中国の省エネ・排出削減は先進国に比べてはるかに困難 (08/03/07)
2008/3/10
中国【省エネ・環境】

 中国の省エネ・排出削減は先進国に比べてはるかに困難

アモイ大学中国エネルギー経済研究センター主任・林伯強

 石油・天然ガス価格が高騰しているため、中国のエネルギーが石炭から石油・天然ガスに転換することは期待できない。しかし、石炭を主とするエネルギー構造は長期的な環境問題をもたらす。さらに、今後、たとえ中国以外の途上国が「高汚染製品」の生産力を身に付けたとしても、中国に大量の製品を供給できるほどの生産能力を有することはあり得ない。

 中国の国情から省エネは不可欠

 先進国の辿ってきた道と対比すると、中国は現在エネルギー需要の高い段階にある。急速に都市化が進んでおり、2020年までには約3億人が都市に移住することになるが、都市人口のエネルギー消費は農村人口の3.5〜4倍に上る。都市化を進めるには、大規模なインフラ建設と住宅建設を要し、そのため、大量のセメントと鋼材が必要になるが、これらは国内で生産するしかない。世界には中国ほど多くの鋼材やセメントを生産する国は他にない。2006年の中国のGDPは世界の約5.5%であったが、鋼材消費量は世界の約30%、セメントは約54%を占めた。エネルギー多消費産業の需要は絶対的なものである。

 中国のエネルギー消費の伸びは急速であり、2003年から2007年にかけてほとんど2ケタ台の伸びを示した。このことはエネルギー多消費産業の急成長に起因するものであり、急速な都市化を表すものでもある。経済成長と都市化を減速させない限り、エネルギー需要の伸びを減速させることは極めて難しい。

 中国のエネルギー需要総量をめぐる問題は、エネルギー埋蔵量と人口に帰結する。中国ほどの大きな人口がいったん消費に向かうや、あらゆる資源が不足を来たすことになる。また、この問題を国際市場の点から見れば、小国の場合は、国際市場によってエネルギー需要を賄っても国際市場価格に影響を与えることはないが、中国の場合は全く異なる。中国に大量の不足が生じると、必ず国際市場価格に影響が及ぶのである。人口が膨大であるため、もし需要を抑制しなければ、中国のエネルギー不足は他に国に比べてはるかに深刻な結果をもたらす。つまり、中国の国情からして省エネは必要不可欠なのである。

 悪化してから改善することによる2つの大きな難題

 中国の環境問題はどのように理解すべきだろうか? 先進国の成長過程における経済成長と環境の関係は一般に環境クズネッツ曲線によって説明される。これは、一国の全体的な環境汚染は、経済成長の初期段階においては悪化するが、その後、経済力の蓄積に伴って改善されるという一般的な傾向を示すものであり、経済成長と汚染の相関関係は逆U字型の形で示される。

 中国も最終的にこの逆U字型を辿ることになるが、しかし、2つの問題によって、中国の曲線の形状は先進諸国とは異なるものになる。第1に、国際的なエネルギーの現状と環境の背景が異なる。石油・天然ガス価格の高騰によって、中国は石炭から石油・天然ガスへの転換を望むべくもなく、石炭を主とする中国のエネルギー構造は、環境をめぐる長期的な問題になる。第2に、消費量が膨大であるため、中国はエネルギー多消費・高汚染製品の自国生産を運命付けられている。今後、たとえ中国以外の途上国が「高汚染製品」の生産力を身に付けたとしても、中国に大量の製品を供給できるほどの生産能力を有することはあり得ない。そのため、中国にとって強力な環境政策は必要不可欠である。環境クズネッツ曲線の掟から逃れられない以上、少なくとも曲線の形状を緩やかにするなり、ピークの出現を早めるなりして、曲線の細部を改めることが必要になる。

 中国にとって省エネ・排出削減は不可欠であるが、そのために払うべき努力は先進国よりもはるかに大きなものになる。つまり、先進諸国のノウハウを汲み取りつつ、中国の国情に応じて、効果的かつ、コストの最も小さい省エネ・排出削減策を模索し、特に戦略、政策面で打開と革新を図ることが必要である。

 政策の革新

 先進国のこれまでの経験から見て、エネルギー利用効率向上の目標と、省エネ目標は通常一致することはない。エネルギー製品の利用効率の向上は当該エネルギーの消費を引き下げることになるが、消費の低下やその後の当該エネルギー使用コストの低下は、需要の反発を引き起こす。つまり、エネルギー経済学で言う反発効果理論である。多くの研究によって、反発効果の存在は実証されている。政府がエネルギー使用効率を向上させることで省エネを進めようとしても、その成果は、このような反発効果によって小さなものになる。省エネ・排出削減の効果を得るためには、反発効果をより一層正確に考量、評価することが必要である。中央政府が各省に割り当てる省エネ目標が、エネルギー使用効率の向上を主とし、市場価格にまで波及しないものである限り、予想より小さい結果しか得られないだろう。環境評価においても、反発効果によって、エネルギー使用効率の向上による温室効果ガス削減の予測は一層困難になる。

 エネルギー価格の改革と組み合わせなければ、エネルギー利用効率を向上させても、エネルギー消費総量を削減出来るとは限らないのである。その上、排出総量を削減出来るかどうかも保証の限りでない。但し、エネルギー利用効率を高めることは、たとえエネルギー消費を削減することが出来なくとも、社会福祉にとっては良いことである。

 先進諸国の経験から言えば、省エネ・排出削減は、市場を主とし、政府の行政を副とすべきである。省エネ・排出削減は概ね2つの次元に分けることが出来る。1つは、市場によって解決できること、すなわちエネルギー価格(エネルギーの不足と環境コスト)を高めることによって、企業と個人が自ら省エネ・排出削減を進めることである。もう1つは、市場によって解決出来ない問題である。これは、省エネ・排出削減基金の投入や、グリーン融資、特殊政策など政府による行政手段を要する。政府が現在重点を置いているのは後者の次元である。しかし、行政措置は短期的には効果があるが、経済社会コストが極めて大きくなり、長期的な効果のある仕組みではない。

 エネルギー代替理論は、経済全体又は1つの製造部門におけるエネルギー、資本及び労働力の間の代替関係を研究するものである。多くの研究は、それぞれの国のエネルギー代替の弾力性について試算しているが、その結果、時期によって資本とエネルギーの代替性を備えている時期もあれば、相互補完性を備えている時期もあることが分かる。先進諸国の経験を総括すると、経済成長の前期においては新技術や資本の投入とエネルギーの間には相互補完性があり、一方、エネルギーと資本の代替には通常、エネルギー価格の上昇を伴い、省エネ技術が広範に使用されると、省エネを目的として資本が投下され、それによりエネルギー消費が低下する。

 こうした先進諸国の成長プロセスと対比すると、中国の現段階の資本投入はより多くエネルギー需要の拡大を伴うものであり、エネルギーと資本は相互補完の関係にある。したがって、中国は省エネ・排出削減を迫られているため、現段階の中国の資本とエネルギーの関係に代替関係をもたらしてエネルギー利用効率を高めようとするなら、第1に、エネルギー価格を引き上げることによって、省エネ技術の広範な使用を誘導しなければならない。第2に、省エネ・排出削減に資金を投入しなければならない。前者はエネルギー価格改革が必要であり、後者は政府の政策的資金支援が必要である。


 (中国能源網 3月7日)