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【石油・天然ガス】

中国 燃油車販売禁止は石油の「黄昏」を告げるのか (17/09/19)
2017/9/19
中国【石油・天然ガス】

燃油車販売禁止は石油の「黄昏」を告げるのか
上級エコノミスト・エネルギー研究家 林益楷

 石油は長年にわたり重要な基礎エネルギーの1つであり続けてきたが、石油業界人もいつまでも枕を高くして眠れるとは限らない。新エネルギーの大幅なコスト引き下げや電気自動車のエネルギー効率向上、シェアリングモデル等の技術の世代交代が加速し、より長いサイクルで見ると、石油「消費ピーク」が最終的に到来し、人類は遅かれ早かれ石油の「黄金時代」と決別するであろうことは認めざるを得ない。

 欧州の複数の諸国が燃油車の販売を禁止したのに続き、中国の工業情報化部も燃油車退出のタイムスケジュールについて検討を開始したことを明らかにした。このニュースは低油価に苦しむ石油産業に激震をもたらした。電気自動車時代は一体いつ到来するのか。石油産業の「黄昏」は本当に到来するのか。石油企業はどこへ行くのか。以下、この問題について3つの側面から考察する。

 問題その1:燃油車販売禁止がもたらす影響をどのように評価するか

 今回、中国の関係政府部門は燃油車販売禁止を表明したもの、未だ明確なタイムスケジュールは公表していない。一方、欧州の複数の国はそれぞれ2025〜40年の退出時間表を提示しているが、政策の表現は曖昧であり、政策の実施効果についてはさらに観察する必要がある。例えば、フランスと英国の禁止政策が対象とする伝統的自動車にはプラグインハイブリッド車やハイブリッド車が含まれるのか否か、一方、非伝統的自動車には超低排出車が含まれるか否か等である。

 2016年の英国、フランス、ドイツ、スウェーデン、ノルウェーの6ヵ国の電気自動車販売量を集計したところでは、ピュアEVがほぼ8万台、PHVがほぼ10万台になり、ハイブリッド車が依然欧州の新エネ車の主流であることが分かる。ウッド・マッケンジーの研究によると、2040年の欧州の自動車総数の50%前後を電気自動車が占め、40万B/Dの石油消費に代替することになる。残りの50%は排出基準を満たす従来型自動車とハイブリッド車であり、後者は200万B/Dの石油を消費する。

 電気自動車の大規模な普及の可否は客観的な要因によって制約される。中でもボトルネックになるのは充電インフラである。欧州の某組織が以前然予測したところによると、理想的なシナリオの下では電気自動車10台につき1本の充電パイルが道路上に必要になり、欧州の公共充電パイルを現在の11.5万本から2020年には23万本に増やすことが必要になる。一方、中国は2020年に電気自動車の保有台数を500万台にすることを計画しているが、現時点で完成している公共充電パイルは約16万本であり、充電インフラの建設が電気自動車の増加に追いつけるかどうかについては大きな不確実性が付きまとう。

 もう1つの不確実性として、電気自動車補助金の撤廃がもたらす影響が挙げられる。近年、各国の電気自動車の販売量が爆増しているのも補助金政策が背景にある。しかしながら、中国政府は電気自動車の補助金政策を2020年頃から徐々に後退させる見通しである。しかし、補助金が補っていたコストを電池コストの低下によって相殺できないことは明らかである。最近の事例を見ても、香港やデンマーク等の補助金撤廃が電気自動車の販売量の伸びに影響しており、将来の補助金政策の大規模な撤廃が及ぼす影響は軽視できない。

 加えて、燃油車販売禁止政策を大規模に推進できるかどうかにも不確実性が付きまとう。相対的に急進的な欧州を例に挙げると、EUが遅くとも2030年までに燃油車販売禁止を広範囲で実施すべきとの提案もあれば、全欧州でゼロエミッションを最終的に実現する時期を2050年にせよとの声もある。もっともこれらは提唱に過ぎず、短期的には全欧州に燃油車販売禁止を強制する可能性はない。まして世界の他の地区ではなおさらである。

 問題その2:電気自動車が石油の代替に及ぼす影響は結局どのくらいなのか

 現在、世界の石油の50%以上が交通分野で消費されている。筆者が集めた資料を見る限りでは、世界の大手機関が行った2040年の世界の電気自動車に対する予測は、控えめ・楽観・急進の3つに分類することができ、電気自動車の予想規模は1〜6億台になる(現在の世界の電気自動車保有量がわずか200万台、シェアは0.2%であることを考えると、上掲の予測は天文学的数字と言える)。電気自動車1億台の増加によって石油需要が140万B/D減少すると仮定すると、影響が及ぶ石油消費量は140〜840万B/Dになり、世界の石油消費量の1.4〜8.8%になる。

 大型トラックや海運、航空等の石油消費に電力に完全に取って代わることが難しいことを勘案した上で、2050年に世界の小型車の全てが電気自動車の天下になると仮定し、現行の世界の一次エネルギー消費に占める石油消費のシェアを33%、世界の石油消費に占めるガソリン消費のシェアを4分の1として試算すると、2050年の世界の一次エネルギーに占める石油消費のシェアは24%前後(現在の天然ガスのシェアに相当)になる。なお、今年のIEAのエネルギー技術展望報告も、2050年の世界の交通用エネルギー消費のうち石油は依然として64.8%を占め、その中でガソリン消費が70%前後、航空と海運が25%を占めるとの見方を示している。

 実際には電気自動車の応用にとって脅威になるのは燃油効率の向上である。《BPエネルギーアウトルック2017》の予測によると、2035年には一般の燃油車の1ガロン当たりの走行距離は50マイルに達し、2015年の30マイル足らずをはるかに上回って、燃油効率は大幅に向上する。そして、燃油効率の向上によって石油を1,700万B/D節約することになる。また、バーンスタインの予測はさらに大胆であり、2040年には燃油効率の向上によって石油消費を2,980万B/D節約するが、2015〜2040年の世界の石油の潜在増加量は4,380万B/Dになって、世界の石油需要を1.036億B/Dに増やすと予想している。

 以上、総合すると、石油が今後も相当長期にわたって重要な基礎エネルギーの1つであり続けると確信する根拠はある。しかしながら、石油業界人もいつまでも枕を高くして眠れるとは限らない。新エネルギーの大幅なコスト引き下げや電気自動車のエネルギー効率向上、シェアリングモデル等の技術の世代交代が加速し、より長いサイクルで見ると、石油「消費ピーク」が最終的に到来し、人類は遅かれ早かれ石油の「黄金時代」と決別するであろうことは認めざるを得ない。

 問題その3:電気自動車のチャレンジに石油企業はどのように対応すべきか

 世界的なエネルギー転換の大きなトレンドの中で、石油企業が新しいエネルギー転換の舞台から下りるのではなく中心に居座ろうとするのなら、組織の変革能力をいかにして高めるかが最大のチャレンジになると筆者は考える。石油企業の転換には種々の困難が付きまとうのは間違いないが、未来のエネルギー転換においても一席を占めるには、業務の転換を積極的に推進するしかない。

 当面の電気自動車の繁栄においても、石油企業は少なくとも3つの面でチャンスに遭遇する。

 (1) 末端市場を開拓するチャンス
 電気自動車の普及に伴い、充電パイルの建設は爆発的な増加の勢いを呈することになる。中投顧問産業センターの研究によると、中国の向こう5年間(2017〜2021年)の充電パイルの年平均複合増加率は約23.3%になり、2021年には58万本に達する。また、一部機関の予測によると、欧州は2040年までに600万本の充電パイルを建設することが必要であり、総投資額は1,800億ユーロに達する。現在、一部の国際石油メジャーや欧州の公共事業会社が充電パイル市場を未来の業務の成長材料と見なしている。中国の石油企業も短期的に給油、ガス補給、充電を一体化した「スマートサービスステーション」の検討を急いでいる。石油企業は比較的大きい規模のサービスステーションを有しており、先行者としての優位を占めている。

 (2) 天然ガス業務発展のチャンス
 電気自動車がクリーンであるかどうかは上流の電力生産の構造によって決まる。一部機関の予測によると、中国の現行の電力事業の炭素強度を勘案すると、電気自動車への転換によって自動車1台当たりのCO2排出量は逆に増加する。もし電気自動車の炭素排出を燃油車並みにしようとするなら、中国の石炭火力発電のシェアを50%以下に下げる必要がある。中国の天然ガス発電のシェアは現在わずか3.1%前後であり、発展のポテンシャルは巨大である。第13次5ヵ年計画によると、2020年には中国の天然ガス発電設備規模は1.1億kWに達する。つまり、中国の向こう4年間の天然ガス発電設備の年平均伸び率は12%前後になり、天然ガス消費量は年平均200億m3以上増える。石油企業にとって低炭素化石エネルギーとしての天然ガスの地位はますます重要になるに違いない。

 (3) 新エネルギー業務への進出のチャンス
 電気自動車は風力発電や太陽光発電など新エネルギーとの間で相互関係が強い。同時に燃油車からの転換過程において、バイオ燃料の比率も上昇するに違いない。IEAの予想によると、バイオ燃料の比率は2014年の2.6%から2050年には21.9%に上昇する。多くの国際石油メジャーは風力、ソーラー、バイオ燃料等の新エネルギー業務に参入し、「ゼロカーボン」業務を石油企業の転換の重要な方向性にすることになる。
 
 (中国石油新聞中心 9月19日)