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【エネルギー全般・政治経済】

「煤改気」の夢が醒める時 (19/07/25)
2019/7/25
中国【エネルギー全般・政治経済】

 7月3日、国家能源局は「『煤改気』『煤改電』等クリーンエネルギー採暖推進過程における関連問題の解決に関する通達」を示達し、多様なクリーン暖房方式を広げることを明確に打ち出した。主にクリーン・コールとバイオマスによる採暖を後押しする。すでに全国の広い範囲で展開されている「煤改気」プロジェクトにとっては、恐らく革命的なものになるだろう。

 「煤改気」、すなわち採暖用ボイラーなど石炭焚き設備をガス化することは中国の環境汚染抑制のための戦略的意思決定の1つであり、これまでは国利民福、クリーン採暖、「青空防衛戦」勝利の重要な措置と見なされていた。

 しかしながら、理想と現実はかけ離れていた。「煤改気」実施過程でガス不足、安全事故、補助金未払い遅滞や住民の暖房難など様々な問題を誘発し、一貫して争論の的であった「煤改気」はますます苦境に陥った。

 そして今、国家能源局の事実上の「停止宣言」は、石炭焚きを「十把一絡げ」に断つことは不可能であり、「煤改気」は民衆の視野から消える可能性もあることを政策策定者がようやく意識するに至ったことを意味している。

 2013年に中国の「スモッグ」は深刻化し、当時、環境保護部や中国科学院の専門家の多くは、大気汚染物総排出量が高止まりする元凶は石炭を主とするエネルギー構造であると指摘、「石炭消費を停止」する「脱石炭化」運動が大々的に展開された。「煤改気」は正にこうした運動の産物であった。

 2015年、「煤改気」計画が初めて提示され、全国の多くの地方で実施に移されたが、効果は決して理想的なものではなかった。しかし、それにも関わらず、2017年には政府主導で強力に推進されることになった。2017年2月、環境保護部は「北京・天津・河北及び周辺地区2017年大気汚染防止工作方案」を通達し、大気汚染の伝播ルートである当該地区の「2+26」都市を北方地区冬季クリーン採暖計画第1期実施範囲に指定した。

 特に北方農村地区は「煤改気」を率先して展開した。2017年に全国で「煤改気」「煤改電」を完了した世帯は578万戸に上ったが、その中で北京・天津・河北及び周辺地区の28都市が394万戸を占めた。

 しかしながら、「煤改気」が段階的な成果を上げていた中でも、一貫して異論があった。専門家の多くは、天然ガスの燃焼過程では大量の窒素酸化物を発生し、スモッグの主要成分であるPM2.5の元凶も正に窒素酸化物であると指摘した。中国工程院の倪維斗院士は「科学的な計算の結果、火力発電所の『煤改気』後に窒素酸化物の排出量は減少するどころか却って増加することが分かった。スモッグはむしろ悪化する」と指摘した。

 「石炭は豊かだが石油ガスは乏しい」というのが中国のエネルギー賦存の際立った特徴であり、天然ガスの対外依存度は30%を超える。こうした状況にありながら、各大都市は次々と都市ガス計画を打ち出した。倪維斗院士の見方では、これは質の高いエネルギーの巨大な浪費に他ならない。

 「大躍進式」プロジェクトとなった「煤改気」は早くから既定のレールから逸脱して、問題が頻発し、混乱に陥った。

 2017年11月末には「大気汚染防止行動計画」は「任務は前倒しで達成された」ことに言及した。2017年には400万戸の世帯の「煤改気」計画を完了したという。この数字は当初の予想を超えるものであったが、中国の天然ガス供給能力を深刻なまでに超過することでもあった。ガス化改修によって、全国的に深刻なガス不足が発生したのである。

 また、人民の生活費の支出を大幅に増やすことにもなった。2016〜2017年に「煤改気」に押される形で中国のLNG供給は30%増えたが、一部地区では天然ガス供給の逼迫に起因する価格上昇問題が発生した。

 特に農村地区ではガス不足と高コストの二重の圧迫の下で、学校で暖房が出来ず、学生が寒さに震える状況も生じた。

 同時に国内のガス貯蔵能力が不十分な中で、政府は天然ガス輸入の拡大を決定した。2018年だけでも中国の天然ガス需要は15%以上増加し、天然ガス輸入量は前年比31.9%増加して9,040万トンに達した。中国は日本を抜いて世界最大の天然ガス輸入国になった。

 意外なことに、こうした巨大な代償を払ったにも関わらず、北京・天津・河北周辺の「2+26都市」を見る限り、2018年の暖房シーズンの石炭分散燃焼管理は芳しい効果を上げられないままであった。

 その原因は資金的束縛が大きい。地方政府は「煤改気」によって中央政府から補助金を交付されたが、実際には応分の資金は交付されず、民間の融資も実行する術がなく、そのため「煤改気」過程において偏りが発生した。

 混乱が止まず抜け穴が百出した「煤改気」はようやく政策決定者から見直されることになった。

 国家能源局が今回公示した「『煤改気』『煤改電』等クリーンエネルギー採暖推進過程における関連問題の解決に関する通達」は180度の大きな転換になる。

 通達の第6条は特に革命的であり、現地の状況に応じて多様なクリーン採暖方式を広げ、クリーン採暖のバランスの取れた発展を保障するとしている。都市地区ではクリーン・コール集中採暖を重点的に発展させ、都市及び周辺地区のクリーン・コール集中採暖の面積を拡大する。農村地区ではバイオマスによる採暖を重点的に発展させ、同時に大量の農林廃棄物の直接焼却に起因する環境問題を解決する。

 全体的に見て、「煤改気」の初志が恵民政策にあったことは確かであるが、政策の策定と普及過程において、中国が石炭を主要エネルギーとすることが十分に意識されていなかった。既存のエネルギー構造を徹底的に転換しようとすることは極めて複雑なシステマティックなプロジェクトなのである。

 「煤改気」が短命に終わったことはほぼ確定したが、改修をすでに完了した地区はどのように収拾をつけるのか。今後のエネルギー転換において「煤改気」に代わるものは何なのか。じっくり見守らなければならない。

 (中国能源網 7月25日)